ときめきスラローム(9)
恵は左側、有紀は右側のコースについた。奈美がかけ声をかける。恵がスタンディング姿勢をとると、有紀もスッと立った。ピクリとも動かない有紀の姿勢に瞬は、ヤレヤレという顔をした。
「あれでバランス感覚が芽久美って子より下だって。よく言うよ」
瞬の言葉に奈美は何とか形になっている恵の姿勢と見比べた。
奈美の「イチ」のかけ声とともに有紀はスッと滑ってスターとした。スムーズに加速してポールに入る。恵も若干遅れて続く。ポールを抜けS字に入る。無駄のない有紀の動きに奈美は吸い込まれた。それと同時に恵の姿に違和感をいだいた。二人がジャンプにさしかかったとき、奈美はそれが確信に変わった。
「三井さん。恵ちゃん……もしかして」
奈美は瞬に確認するように言った。瞬は奈美を見てうなずいた。
「ああ、間違いない。あいつ、新川を完コピしてやがる。瞬時のうちに。ひょっとして、俺ともう一度走りたいと言ったのは……」
二人が見ているのは、有紀の走り方と同じ走りをする恵の姿だった。少しリードして走る有紀の姿勢、体重移動、タイミングを恵がそのまま取り入れて走っているのである。ちょうど輪唱の歌のようなリズムだ。
「すごい特技ですね。一緒に走りたくないタイプです」
瞬と奈美がゴールした二人を眺めていると不意に後ろから声が掛かった。浩一だ。
「先生、いつの間に!」
瞬と奈美が驚いて振り返った。
「おもしろそうなメンバーで走っているから見に来きました」
「先生、恵ちゃんにそんな特技があるなんて」
奈美が可愛らしい目を大きくしながら聞いた。
「特技というか、癖というか。本人はあまり意識していないかもしれません。ただ、本能的に速く走るということを求めているような気がします。最初に見たときから、そう感じ……」
「あー、瞬ちゃんいたあ!?次は瞬ちゃんとかあ」
メグが元気な声と共に上がってきた。
ゴールした有紀と恵がお互いハイタッチをした。
(軽く走るつもりが、押されている気がした)
有紀は納得した表情で、恵を見ていた。恵はというと、有紀の走りに舌を巻いていた。
「初心者の私が見ても綺麗な走り方ってわかります」
恵は有紀と並んでコースを出るとタープテントの方を指さした。
「私、水分補給してきます。緊張して凄く楽しくて、のどがカラカラで。スラロームがこんなにワクワクするなんて。すぐ戻るから私の順番とばして走ってください」
恵はそう言いながらタープテントの方に走っていった。
「困ったな。シローと離れてしまった。久し振りに走るから浮かれてしまって、知らない道なのについつい調子にのった。ナビではこの道で間違いないと思うけど」
一台のロードバイクが舗装道を走っている。
「ここを通れば森林公園を突き抜けるはずなのに。その先で待って連絡をしよう」
男は走り続けた。
恵がタープテントで一息ついてコースに戻ろうとしたとき、目の前をロードバイクが走っていった。
「そうかあ。ここは公園を通り抜けるロードバイクのコースにもなってるんだ」
恵はそのロードバイクを見送ったが、次の瞬間、目を疑う光景があった。こともあろうか、林道コースに入り込もうとしていた。
(うそ!あれで走ったら転倒する)
恵はとっさに追いかけた。




