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揃い踏み強敵達!登場、神沢妃美香(5)

 恵はいまトイレの前にいた。緊張というほどではないが、やはりウェア姿を見せるにはちょっと覚悟がいった。そのためかどうかは分からないがなぜかトイレに行きたくなったのだ。そして空きの一室を見つけ入ろうとした。


(・・・・・?入れない。肩に何か支えている)


 恵はふと肩越しを見るとギョッとした。そこにはなんともう一人トイレに駆け込もうという人物がいた。お互いの目が合った。しかも相手の目は一歩も譲る気配を見せてない鋭い目つきだった。


「ちょっとあなた、そこお退きになって。わたくしの道をふさがないように」

「ふさぐ?」


 こうなると恵もさがれなかった。


「何言ってんのよ。あなたがさがればいいんでしょう」


 恵は頑として前に体を出した。二人は互いにトイレに入ろうと入口でもがいていた。


「あなたこそ、ここはわたくし専用だと知らなくて」

「専用?何処にそんなもん書いてんのよ」

「あら、世間一般の常識ですことよ」

「じょうしき?」


 恵があっけにとられた隙に女性は素早くトイレに入ってしまった。


「なに、あれ!なにが『世間一般の常識ですことよ』よ」

 恵がトイレのドアにあっかんべーをしたちょうどそのとき、隣が空いて人が出てきた。恵は慌ててしかめた顔をなおすとトイレに入った。


 しばらく後、恵は用が済みトイレを出ようとしたが、隣からキイキイ叫いている声に気付いた。


「誰か・・・・・・そこにいて」


 隣からためらったような声で言ってきた。当然さっきの女性だが、恵は何やら様子がおかしいことに気がついた。


「どうかいたしましたー?」

「ちょっと・・・・・・あなたは?」

「あら、さっきそこに入りそびれた者です」

「なっ・・・・・・」


 隣人は声を詰まらせた。


「何かお困りのようで」


 恵はどこか焦らすような口調で言った。


「なっ何でもありませんわ」

「あっ、そうですか」


 恵はそのまま出ていこうとしたが、意を決した声が恵を止めた。


「ちょっと、待って」

「はあ」

「・・・みを・・・」


 隣人はなにやらごにょごにょと口ごもっていた。


「はあ、何か言いました?」

「か・・・み・・を・・・」

「あのー、よく聞こえないんですが」

「かみを・・・・・・ください」

「なんですって、はっきり言ってください」


 恵は壁の側に耳を近づけて聞くまねをした。


「かみくれっていってるでしょう!」


 壁から突き刺さるような鋭い声が恵の耳を襲った。驚いた恵はのけぞった反動で後ろの壁に頭をぶつけそうになった。


「あのねー」

 

 恵はこけかけた体を起こすとトイレットペーパーを取り出した。


「人にものを頼むのにそんな言い方はないんじゃないの?だいたいそこはあなた専用でしょ。紙ぐらいちゃんと用意しなさいよ」

「まあ、わたくしがこれほど下手に出ているというのに何が不満なの」

「ええ不満ですとも。このまま私出ていきましょうか?」

「ちょっと、分かったわ。お願いしますわ」


 隣人は必死で気持ちを押さえ込んだ様子でいった。恵はその言葉にドアの上からペーパーを手渡した。


「あなたいい度胸してるわね。この神沢妃美香にそこまで大きく出るなんて」


 そう言いながら隣人はドアを開け、恵の姿を探したがそこにはもう誰一人いなかった。


(ここまで私をバカにするとは・・・・・・あの黄色の女、おぼえてらっしゃい)


 キッと口をつぐむと誰もいない洗面所を後にした。

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