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4.

「あの、エミリオ殿下、どうしてこんなことになっているのか、事情を教えてもらえないでしょうか?」


 私は殿下に尋ねた。

 兵たちは別の場所を探しているようで、今はこの宿屋の近くにはいないようだった。


「ああ、もちろん、説明するよ。知っての通り、私はこの国の第四王子だ。しかし、私が王宮で暮らすようになったのは、ここ数年の話なんだ」


「え……、どういうことですか?」


 私は、当然の疑問を口にした。

 そして、殿下が説明を続ける。


「実は私は、平民との間に生まれた子供なんだ。陛下は、そのことを知っていた。知っていたが、私たちのことを放置していた。母のことを無視して、王宮に迎え入れることもなく、私たちは平民として暮らしていた。しかし、数年前、母が病気で亡くなった時、陛下が現れた。そして陛下は、一人になった私を王宮へ招いた。ほとんど強制的にね。そうしたのは、政治的な道具としての利用価値が私にあったからだ。決して、私自身のためではなかった」


 私は口を挟まず、殿下の話を聞いていた。

 なんてひどい話なのだろう。

 そんな扱いをされて、殿下が平気でいられるはずがない。


「王宮での生活は、息苦しいものだった。王家としての作法を叩きこまれ、厳しい教育の毎日だった。それに、私が平民との間の子供だから、ほかの兄弟や王宮に努めている者からの扱いも、ひどいものだった。私はそんな生活に、嫌気がさしていた。だから、今日のように王宮から逃げたこともあった。かなり前の話だけれどね。その時はあっけなく捕まってしまって、一か月監禁されたよ。あの時は地獄だった。それからは、王宮から逃げ出そうとは思わなかったよ。でも、最近、私の婚約が決まったんだ。相手は違う国の令嬢で、私はその国へ行くことになったんだ。一度だけその令嬢と会ったけれど、まるで私のことなど見ていなかった。この婚約は、政略結婚のためのもので、私は両国の関係をよくするための道具に過ぎないというわけだ。私は、そんなの耐えられない。知らない国に行って、一人孤独に耐えられるなんて思えない。だから今日、数年ぶりに王宮からの脱出を決意したんだ」


 私は、殿下を抱きしめた。

 なんて、ひどい扱いなのだろう。

 私は、殿下の気持ちが少しわかった。

 私の殿下と同じような境遇だから。


「今まで、大変でしたね、殿下。私も、少しは殿下の気持ちがわかります。私も、血のつながらない家族に、酷い仕打ちを受けてきましたから」


     *


 (※ナタリー視点)


 私はお姉さまの部屋に入って、本棚から一冊の本を手に取った。


 それは、経営について書かれた本である。

 これからはお姉さまに変わって、私がお店を経営するのだから、少しは経営について学んでおいた方がいい。

 私は本をめくって、眺めていた。

 

 少し眺めては、次のページをめくり、また少し眺めては、次のページをめくっていた。

 そして、時間が経つにつれ、段々ページをめくるスピードが上がっていた。

 文字を目で追っていても、内容が頭に入ってこない。

 ついに我慢の限界を迎えた私は、本を放り投げた。


「こんなもの読まなくても、べつに大丈夫だわ。どうせ、大した内容なんて書かれていないでしょうし。私の才能だけで、充分だわ。こんなの、勘に従ってやればいいのよ」

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