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37.

「暇ですねぇ……」


「確かに暇ね……」


 私たちは基本的には逃亡生活だけれど、変装のおかげでそこまで切迫したものでもなく、どちらかといえば、ほのぼのとしている。

 金銭的な余裕や時間的な余裕はたくさんあるから、暇な時間もそこそこある。


 普段はそういう時に何をしているかといえば、町の散策だったり、新しいメイクを試してみたりしている。

 でも今日は、違うことで暇をつぶしていた。

 

「犯人は、出店でクッキーを売っていた店員だと思います」


 私たちは、毒殺の犯人について話していた。

 犯人が捕まったという発表はまだない。

 小さな町に毒殺犯がまだ潜んでいるというのは、気持ちが悪いものだ。

 早く捕まってほしい。


 まあ、この町から出ればいい話なのだけれど、宿にはあと一週間以上泊ることができる。

 このまま出て行くのは、なんとなくもったいない気がする。


「まあ、毒を一番仕込みやすいのは、クッキーを売っている人だから、そう考えるのが自然ね」


「でも、ほかの人が買ったクッキーからは、毒は検出されなかったんですよ。不思議です。箱だって、店員が棚から選んで渡したのではなく、並んであるものの中からお客さんが選んだのですよ。お店で売っていたクッキーの箱は、百個以上はありました。それなのに、どうやって被害者の人に、その箱を選ばせたのでしょうか?」


「確かに不思議ね。まあ、それは、犯人があの被害者の人を狙っていたと仮定した場合の話だけれど」


「ええ、そうですね。でも、憲兵の人も言っていましたよ。無差別に狙ったのなら、一人だけというのは効果が薄すぎるって。同様の事件を繰り返すわけでもないので、おそらく犯人はあの被害者の人を狙っていたと見ているそうですよ。百個以上あるものの中から、どうやって毒入りの物を選ばせたのでしょうか?」


「今回の件には適用できないけれど、似たようなことなら、私にもできるわよ」


「え……、できるんですか!?」


 私は驚いた。

 え、それって、結構すごいことなのでは?


「ちょっと待ってて」


 殿下は部屋にあったメモ用紙とペンを持ってきて、ソファに座った。


「少しの間、目を瞑っていて」


「はい……」


 私は殿下に言われた通り、目を瞑った。


「はい、もういいわよ」


 数秒後、殿下に言われて、私は目を開けた。

 すると、テーブルの上に、メモ用紙が十枚並べられていた。


「この中から、一枚選んで。星が書かれた紙を、あなたに選ばせるわ」


「え……、そんなことできるんですか!? 絶対無理ですよ」


 私はそう言いつつ、一枚の紙を取って、上に掲げた。


「光で透かすのはナシよ」


「わ、わかってますよ……」


     *


 (※ナタリー視点)


 今月は、赤字になってしまった……。


 なんてことなの……。

 お姉さまは、まったくの素人の状態から経営を始めた。

 条件は、私と同じだ。

 いや、お店がすでに軌道に乗っていた分、私の方が圧倒的に有利だった。


 それなのに……、それなのに、どうしてこうなるの?


 私が、お姉さまよりも劣っていたということ?

 いえ、そんなはずないわ。

 それだけは、絶対に認めない。

 しかし、これだけ悪い状況でも、一つだけいいことがあった。


 あれから数日経ったけれど、お父様たちがお店に来ることはなかった。

 もし来るときは先に私に伝えて、と言ってあるけど、今のところは何も言ってこない。

 サクラを雇って大金を使わずに済むので、この最悪の状況で、唯一良いことだった。

 そう思っていたのだけれど……。


「ナタリー、実はな、皆で話していたんだが、あのお店に、週一で通うことにした」


「え……」


 お父様の言葉に、私は驚いた。

 え、嘘でしょう?

 週一で来るの?

 一度きりの見学だったと思っていたのに、まさか、こんなことになるなんて思わなかった。


 そんなことされたら、困るどころの話ではないわ……。

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