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夏のホラーシリーズ

汚吊蚊霊鎖魔頽死蛇

作者: 紅蓮グレン

「また来てるの……? もう夜中なのに……そもそも不法侵入だしさ、勘弁してほしいよ、まったく。」


 私は悪態をついた。ここは私の家……とは言い切れないけど、取り敢えず所有物であり安息の地であり住んでいるところでもある。だから、勝手に入って来てもらっちゃ困るんだよね。おちおち休憩もできない。ま、人間さんはこういう【心霊スポット】みたいなところに面白半分や興味本位で来たくなるみたいだから、防ぐのは無理だって分かってるけど……流石に辟易する。


「私の安息の地を勝手に荒らし回ってさ……一々追い払うのも面倒なんだよね。もういっそのこと、狩っちゃってもいいかな。」


 今まではここに来た人を驚かして追い返すだけだったけど、もう我慢できない。この私という存在を怒らせたらどうなるか、思い知らせてあげないと。


「しばらくやってなかったからな……上手くできるか分からないけど、久々に遊べるかもしれないし、気合い入れていこう。」


 私は誰にともなく呟くと、今日の不法侵入者たちの近くへと向かった。


              ※  ※  ※


「よし、この辺なら声が届くよね。」


 私は1階ホールにいる侵入者たちを見ながら声を潜めて呟く。大学生くらいの男の人が2人、女の人が2人。このくらいなら、警告に使うにはちょうどいい。


「お兄さん、お姉さん。かくれんぼしましょう?」


 私は柱の陰に身を隠しながら大きな声を出した。ホールなら声が反響するからどこから話しかけてるかは分からないはず。案の定、侵入者たちは首をキョロキョロさせて声の主を探している。


「うふふ、鬼は私ね。始めましょう。いーち、にー、さーん……」


 カウントダウンに焦ったのか、侵入者のうちの1人が後ろにあるドアを開けようとしているけど、とっくに施錠済みだから無駄だ。折角のかくれんぼ、隠れる側を逃がす訳にはいかないんだから。


「お兄さんたち、私が言ってるのは鬼ごっこじゃなくて、かくれんぼだよ? 逃げるんじゃなくて、隠れなきゃ。よーん、ごー、ろーく……」

「おい、どこにいる! 誰なんだ!」

「ただじゃ教えてあげないよ。私に勝ったら教えてあげる。しーち、はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい?」


 私は柱の陰から出て、わざと私のことが侵入者たちに見えるようにしながらホールを覗き込む。


「お兄さんたち、やる気あるの? ここの主は私、だから私がルールなんだよ。勝手に入って来たお兄さんたちは従うしかないの。もう一回カウントしてあげるから、真面目に隠れてね?」


 私はそれだけ言うとさっさと柱の陰へ再び身を隠す。そして、別の柱の裏へと移動し、


「いーち、にー、さーん……」


 とカウントダウンを開始。侵入者たちは私がさっきまで隠れていた柱の後ろを覗き込み、誰もいないと分かって一気に青ざめた。


「よーん、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい?」


 私は誰も隠れていないことを認識した上で柱の陰から再び身を出す。


「まだ隠れてくれないの? 私、そんなに気が長いタイプじゃないんだよ。さっきも説明したけど、ここでは私のルールが絶対。ここに入ってきた時点でお兄さんたちに選択肢なんてないからね? でもまあ、いきなり言われて戸惑うのも分かるし、もう1回だけチャンスをあげる。でも、これでもし隠れてなかったらお兄さんたちみんなまとめて『みーつけた』だからね。さあ、始めるよ。いーち、にー、さーん……」


 ホールにあった生体反応が一気に散っていく。やっと隠れてくれるっぽい。夜明けまであまり時間はないけど、生体反応で居場所を特定するのは明らかにズルだし、面白くない。そう思って私は生体反応を努めて感じないようにした。


「よーん、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい?」

「ま、まーだだよー……」


 お、正式なお返事だ。ちょっと声が震えているけど、かくれんぼに参加の意思はあるんだね。拒否権はないってことはちゃんと理解できたみたい。


「いーち、にー、さーん、よーん、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい?」

「まーだだよー……」

「まだなの? 私、さっきも言ったけどあんまり気が長い方じゃないからね? まあ、ルールだからいいけど、これがもしただの時間稼ぎだったら許さないよ。さて、じゃあもう1回。いーち、にー、さーん、よーん、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい?」

「も、もういいよー……」


 もう時間稼ぎする訳にはいかないと思ったのか、それとも本当に隠れるのが完了したのかは分からないけど、兎も角了承の返事が返ってきたんだから、ここからは私のターン。


「よーし、頑張って探すぞー! どこに隠れているのかなっと♪」


 私は久しぶりのかくれんぼにウキウキする。まあ、あの侵入者たちをひどい目にあわせてここの危険性を外に警告するっていう目的もあるから、単純に楽しんで探すだけって訳にはいかないんだけどね。


              ※  ※  ※


「あれ、私お掃除してるはずなのに、何でこんなにビー玉が転がってるんだろう?」


 鎧がいくつか飾ってある部屋に入ったところ、その部屋の中一面にビー玉が転がっていた。ここの隣はおもちゃ部屋だし、そこにはビー玉もある。でも、私はビー玉を取り出したりなんかしてないし、お掃除もしてるからビー玉が転がっているのはおかしい。つまり、これは侵入者の誰かが撒いたってことになる。何か考えがあるのかは分からないけど。


「まあいいや。探すの続行しよっと。この辺にいそうだし。」


 私は飾ってある鎧を1つずつ叩いて回る。中に人が入っていたら音の響きが違うはずだから。でも、どれも同じ音っぽい。私は足元に転がっていたビー玉を蹴っ飛ばす。ころころと音を立てながらビー玉は転がっていった。


「あ、もしかして、私が入って来たかどうかこれで確かめようとしていたのかな?」


 私がこの部屋に入ってきたらビー玉を蹴っ飛ばしたり、何かしらのアクションを起こすと思ってビー玉を撒いたのかもしれない。でも、それは愚策なんだよね。だって、私は歩行移動も浮遊移動もできるから。


「よし、じゃあ逆手にとろうっと。」


 私はビー玉を大袈裟に蹴っ飛ばして、苛立ったように声をあげる。


「あー、もう! 絶対ここにいると思ったのに!」


 そしてドア付近に移動すると、乱暴にドアを閉め、同時に浮遊して大きめの鎧の陰に身を潜める。少しすると、私が隠れている鎧から一番離れたところにある鎧の足元の床板が外れ、そこから女性が頭を覗かせた。成程、床下に隠れてたんだね。これなら確かに見つかりにくいし、私が近くに来たかどうかの確認もできる。でも、その点私の方が一枚上手だったみたい。私は女性の前に浮遊して移動すると、指を突きつけて高らかに宣言した。


「みーつけた!」


              ※  ※  ※


 その後は簡単だった。棺の並ぶ部屋で、馬鹿正直に棺の中に隠れていた男性。


「みーつけた!」


 書斎の本棚の後ろの隙間に隠れていた女性。


「みーつけた!」


 そして、玄関ホールの端っこの方にある柱の陰でしゃがみ、息を潜めていた男性。


「やった、最後の1人、みーつけた!」


              ※  ※  ※


「残念、全員見つかっちゃったね。これで私の勝ち♪」


 私は見つけた4人をホールの一か所にまとめて上機嫌。対して侵入者たちは顔面蒼白だ。


「さてと、私は昔こんな言葉を聞いたことがあるんだ。【バレなきゃ犯罪じゃない】って。お兄さんたちはこのお屋敷侵入もバレなきゃいい、って考えたのかもしれないけど、私にバレちゃった。ってことで、お兄さんたちは住居不法侵入、っていう立派な犯罪行為を犯した犯罪者だね。」


 私はにっこり笑った。でも侵入者たちは何も言わず、顔を青くしてガタガタ震えるだけ。


「私、結構物知りなんだ。こんな言葉も知ってるんだよ。【敗者には死を】っていうの。素敵な言葉じゃない?」

「……ど、どこが素敵なんだ……そんな恐ろしい言葉……」

「へえ、言い返すくらいの気概はあるんだね。でも、そんなこと言ってる暇があったら遺言とか、辞世の句とか考えておいた方が良いよ。私はこれでも慈悲深いから、そういうのあったら聞いてあげるし。誰かに伝えるとかはできないけどね。」


 私は再びにっこりと笑うと、続ける。


「さて、【敗者には死を】が素敵な理由は今のこの状況が表現してるよね。お兄さんたちは敗者で、私は勝者。だから私は勝者の権限を以て、敗者に死っていう裁きを下せるの。ゾクゾクするよ、私もお兄さんたちも。」

「んなっ……」

「私がいつまでも大人しくしてると思ったら大間違いだよ。一々追い返すのも面倒臭いし、ラップ音やらポルターガイスト現象やらを起こすのも意外と大変なんだから。もういい加減、来ないで欲しいの。でも、人間さんたちは超常現象とか好きだし、本当に大変なことにならないと理解しないみたいだから、警告として見せしめでもしようかな、って思ってたんだ。ということで、お兄さんたちは運が悪かったと思って諦めてね。」

「そ、そんな……殺人と住居不法侵入とじゃ釣り合いが……」

「はあ?」


 私は怒りで思わず声がオクターブ低くなった。私からしたら、ここにこられること自体が安息の地に侵入され続けっていうことでストレスたまりまくりだし、追い返すのにはエネルギー使うのに十分な休憩も取れない。人間さんが何日もそんな状況に置かれたら当然健康を害するはず。ってことは、ここに不法侵入することは私を殺そうとしている、みたいなものだと思うんだけど。


「その発言に対しては色々言いたいことがあるけど、どうせ人間さんと話しても無駄だろうね。私と人間さんの価値観は色々違うだろうし。兎に角、お兄さんたちは敗者なんだから、覚悟して。」

「そ、そんなこと言ったって、流石に殺しは……」

「大丈夫大丈夫。私はこんな言葉を知ってるから。【バレなきゃ犯罪じゃない】ってね。」


 はい論破。


「もうこれ以上話す必要もないよね。遺言とか辞世の句があるなら言っていいよ。慈悲深い私が聞いてあげるから。」


 私は三度ニッコリと笑いかけたけど、みんな青い顔で俯いて震えているだけ。何かつまらないな。もっと泣きわめくとか、命乞いとかあったら面白いのに。でも、この状況からじゃあ煽ったりしても期待できそうにないし、もうちょっとビビらせるくらいで満足しておこう。私は、一番最初に見つけた女性の髪を掴むと、強引に顔を上げさせる。


「ちょっと、そんなに怯えて引きつった顔しないでよ。折角なんだから、最後くらい笑顔でいればいいのに。」

「ひっ……」

「じゃあ、おしゃべりは今度こそこれでおしまい。お兄さんたちみんな、遺言も辞世の句もないみたいだし、もう思い残すことはないんだよね。それじゃあ、お疲れ様でした。」


 ――ドスッ

 ――ブシャッ

 ――ズブッ

 ――グチャッ


 4つの音が響き、屋敷は静寂に包まれた。


              ※  ※  ※


「では、次のニュースです。山中にある洋館で、4人の若者の遺体が発見されました。警察への取材で、4人はいずれも数日前から行方不明になっていた大学生であること、また、全員が別々の場所で発見されたことが明らかになっています。この洋館は以前から少女の幽霊が出る、ポルターガイスト現象が起こる、などの噂があり、肝試しスポットとして人気だったため、警察は肝試し中に何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして捜査しているとのことです。」


 2日後、私はテレビにイヤホンを繋いで音が漏れないようにしながらニュースを聞き、一人でこっそりと笑った。あの4人の結末は警告にも見せしめにもなったし、ついでに入り口ドア付近に黄色いテープが張られて、ここは立ち入り禁止になった。


「思わぬ副産物までついてきたし、結果としては大成功かな。」


 私は4人の侵入者のことを思い返す。そしてもう一度、この言葉を贈ることにした。


汚吊蚊霊鎖魔頽死蛇おつかれさまでした

ホラー初挑戦です。楽しんで……いや、怖がっていただけたら幸いです。

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