第八話
咲ちゃんと違って、王さまは泣いていない。でも、死にたいと思うほどの苦しみを小さいのに背負っている。
咲ちゃんのときは何もできなかったけど、今の僕は話すことも歩くこともできる。もしかしたら、何かできるかもしれない。僕が連れて来られたのは間違いだと思っているけど、できることがあるなら手伝いたい。
咲ちゃんのことは心配だけど、少しの間この世界にいるくらいだったら大丈夫かな?でも、せめてそのことを伝えて咲ちゃんのところに帰ってくるって伝えたいな。
「とりあえず、ハルに聖女と姉上にあってもらいましょう。神が連れてきたということは、ハルには生きたいと思わせる力があるのかもしれません」
リアムの言葉に僕は激しく首を振った。
「そんな力、僕にはないよ!王さまと会って、お手伝いできることがあればなってとは思ったけど......」
「いえ、あなたは何かの間違いと言いましたが、世界が救われるか救われないかという問題で、そんな間違いをすることはないでしょう」
たしかにそうかもしれないけど、だからといって僕が世界を救えるなんて思えない。
「そ、そうだ!王さまに聞きたいことがあったんだ。神さまとお話しする方法知ってる?もし、知ってるんだったら、僕が世界を救える確率が高いって言ったのは誰かと勘違いしたって確認できるんだけど.......だって、僕、ただの飼い犬のミニチュアダックスフンドだったんだよ、何かできるわけないよ」
僕がそう言った瞬間、さっきからいい空気とはいえなかった部屋がさらにピリピリとした空気になった。
「ハル、今、飼い犬と言ったのか?」
王さまがものすごく怖い顔して聞いてきた。でも、頷くしか選択肢がないのでこくりと頷いた。
「異世界にも、獣人を奴隷として扱う人族がいるのだな。許せないっ.......!」
ドンと、握りしめた拳をソファーに叩きつけた王さまを見て、あまり感情を出さない子供だと思っていたので驚いた。
でも、驚いている暇はない。早く誤解を解かないと。
「僕、奴隷だったわけじゃないよ。飼われていたけど、家族だったんだ」
そう言った僕の手の上に、雫が落ちてきた。続けて、上からグスッと聞こえて思わず見上げるとライリーが泣いていた。
「たまにいるんだよ、物心ついたときから奴隷にされて、家族だって甘い言葉で洗脳して酷いことをさせられるやつが。」
僕はライリーの言葉を否定しようとすると、隣から舌打ちが聞こえてびっくりしてリアムの方を見た。
「ほんと許せねぇな」
怒鳴っているわけでなく、むしろ落ち着いた声なのにものすごく怖いし、出会った頃からずっと敬語だったリアムが乱暴な言葉を話しているから、聞き間違いではないかと自分の耳を疑ってしまった。
「ハルみたいなガキにも手をだすなんて人族は、心を持たないバケモンだ。滅してやる」
リアムが殺気立ってそう言ったので、慌てて僕がいた世界の話をした。
獣人がいないこと、もともと僕は四足歩行だったこと、ひどい扱いはまったく受けてないし、むしろ大事にされていたと必死に説明した。
その甲斐あってか、みんなわかってくれたみたいだけど、複雑そうな表情だった。
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