第七話
「王さまは、死にたいって強く思ったことがあるよね。そして、その感情はまだ残ってると思う。呪いは、その死にたいって気持ちを利用して完成するんだ。生き物はみんな生きたいっていう本能がある。でも、その本能に抗えるほどの悲しい思いは、とても強いものだ。だから、呪いの材料として最適なんだ。」
僕は頭の中にある呪いの情報を、すべてみんなにそのまま話した。
「たしかに、死にたいと思ったことがある。」
王さまが肯定したことに、ライリーとリアム二人は息を呑んだ。そして、その後、誰も口を開かずにいたのでしばらくの間、部屋はとても静かだった。
最初に沈黙を破ったのは、リアムだった。
「姉上も、思い詰めていたことがありましたし、聖女さまは、人族に攫われた際の心の傷が治っていないことは容易に想像できます。ハルの言う通りの呪いなのだとしたら、心の傷を消さないといけないのですか?それは、簡単なことではないはずです」
「心の傷は消せないと思うよ。本当は、綺麗に治るのが1番幸せだけど、それは無理だと思う。ただ......」
僕が咲ちゃんを思い出して話していると、ライリーの怒りにも似た激しい感情が込められた声が僕の言葉を遮った。
「じゃあ、諦めるしかないってことか?あたしは姉貴に死んで欲しくない。もちろん王にも、会ったことはないけど聖女にもな。ハル、神に知識と知恵もらったんだろ? 心の傷は消せないって言ったけど、神からもらった知識とかの中に心の傷を消す方法ないのかよ」
僕を抱く腕に力が込められて少し痛い。でも、それほど呪いを消したいという気持ちがつよいのだと伝わってくる。
「消す方法は、残念だけどないよ。ただ、呪いを解くのに、傷を消す必要はないんだ。血が出ないようにすればいいと思う。」
「どういう意味でしょうか」
僕の言葉にリアムは首を傾げた。
「死にたいって気持ちが呪いの材料になってるって言ったよね?つまり、死にたいって気持ちがなくなれば呪いは解けるんだ。死にたいっていうのは、傷から血が止まらない状態なんだと思う。」
だから、この呪いがなかったとしても、もしかしたらこの呪いにかかる人は、いつか死んでしまってたかもしれないと僕は思うが、本人やその家族の前で言うことは躊躇われたので、その言葉は飲み込んだ。
「でも、血が出ない状態、つまり生きたいって思えるようになれば、傷の跡は残るだろうし、急に痛み出すこともあるけど、死なない。傷をその状態まで癒すことも、とても難しいけど可能性はあると思うよ」
咲ちゃんがそうだったから。咲ちゃんは死にたいってよく言ってた。でも、理由はわからないけど段々とその言葉は減っていって、その代わり笑顔が増えた。
たけど、夜中に昔の夢を見て泣いていたし、勉強しているときやスマホを見ているとき、急に昔のことを思い出して泣いてしまうことがあった。そんな、悲しそうな咲ちゃんの側に僕はただ一緒にいて、話を聞いてあげることしかできなかった。
だから、心の傷は消せなくて、残り続けるものだって知ってる。
ぜんぜん王さまと咲ちゃんは似ていない。だけど、なぜか出会ったころの咲ちゃんと王さまが重なってしまう。咲ちゃんのように生きて、笑ってほしいと強く思った。
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