第三話
廊下に出た僕たちは、しばらく無言だった。僕は色々と話したいことがあったのだが、あの部屋と違って廊下は静かで声を出すのが躊躇われた。だから、大人しくリアムに抱っこされたままだった。
でも、ライリーがその静かさを追い払うようにいきなり叫んだ。
「あぁーー!あいつら、王の言う通り、ハルに媚び売ろうとしてたな。しかも、王の予想が正しければ自分に都合のいい情報だけを教え込むつもりなんだろ?貴族ってタチ悪いよな」
僕はライリーが突然叫んだことにびっくりして、身体がビクッとした。
「姉さん、うるさいです。ハルがびっくりしてます」
リアムが抗議の声を上げると、ライリーは僕の頭に手を置いてぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
「悪い。イラついてしまってな」
「いえ、平気です」
びっくりはしたがぜんぜん怒ってなかったので、ライリーが謝る必要はなかったのだが、そのおかげで撫でられたので嬉しい。少し力が強かったが。
それよりも、僕はこの機会に話したいことを話してみることにした。
「あの!僕、元の世界に戻りたいんです。神様だっていう人に無理矢理連れてこられたんですけど...どうしたらいいですか?」
ライリーとリアムは、顔を見合わせて困った顔をした。そして、リアムは眉を申し訳なさそうな顔をして僕を見つめた。
「申し訳ありません。私たちは魔法に詳しくないので知らないだけかもしれませんが、おそらくハルをもとの場所に戻す魔法はないと思われます」
魔法はもとの世界にないものだったが、やはり知識を神様からもらったからか何かわかった。だから、僕はリアムの言葉を理解できた。だからこそ、ものすごく落ち込んだ。
でも、リアムが続けて話した言葉に僕は怒りを覚えた。
「それに......あったとしても、誰もハルに教えることはないと思います。」
「なんで!?咲ちゃんが僕を待ってるはずなんだ!もし、僕をもとの場所に戻す魔法があるなら、教えてよ!」
僕がいなくなって泣いている咲ちゃんを想像してしまった。また、あの頃みたいに悲しい顔ばかりになってしまったら、そう思うと感情が抑えられなくなった。それに、勝手に連れてきて、帰す方法を教えてくれないなんて帰すつもりがないって言ってるのと同じだ。
僕は、リアムに抱っこされてるのが嫌になって暴れた。でも、リアムは強く僕を抱きしめて僕を離さそうとはしなかった。
「ハル、暴れたら危ないです!知らないのは本当なんです。」
そう言われても、僕は暴れ続けた。次第に涙が出てきて、大泣きしてしまった。
「泣かないでください。あなたのような小さい子に泣かれるとどうすればいいかわからなくなります。わかりました、もしあなたがもといた場所に戻る方法を私が知ったらあなたに教えます。約束です」
「......ほんと?約束してくれる?」
「はい、誓います」
僕は暴れるのをやめた。でも、涙はなかなか止まらない。だって、咲ちゃんのことが心配だ。それに、いきなり知らない世界にやってきて僕は不安な気持ちでいっぱいだった。だから、僕のためを思ってしてくれた約束のおかげで少し心が暖かくなったけど、不安がなくなったわけではない。
俯きながら涙を流していると、頭に温かい何かが置かれた。顔を上げると、ライリーが僕の顔を覗き込んでいて、暖かい何かはライリーの手だった。
「ハル、お前は大したやつだよ。リアムをここまで狼狽えさせるなんて。よし、弟ばかりにいい顔させられないな。リアム、膝立ちをしてくれ」
「えっ......わかりました」
リアムは急にそう言われて驚いたようだったが、僕を抱えながら大人しく言われた通り膝立ちになった。
するとライリーは膝立ちをして、僕の手をとった。そして、手の甲に優しく口づけをした。
「これは、騎士が忠誠を誓うときに行う口づけだ。本当は、ある言葉を言わないといけないんだが、流石に今日会ったばかりのお前に言えるほど軽々しくものではない。でも、これだけでも真剣に誓いをしていると騎士ならばわかるくらいには重いものだ。あたしは、ハルを守るって誓うよ」
僕の涙は驚きからからいつの間にか止まっていた。
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