第一話
ミニチュアダックスフンドの僕は、咲ちゃんのパパとママに買われてこの家にやってきた。
この家にやってきた時、ママは涙目になりながらこう言った。
「今日から私たちは家族なの。それでね、あなたのお姉ちゃんになる咲の心の傷を癒やしてほしいの」
よくわからなかったけど、期待されているのとがわかってぼくは頑張ろうって思った。
この家に来て、すぐに連れて行かれたのは咲ちゃんのお部屋だった。
はじめて見る咲ちゃんは、部屋の隅で膝を抱えていて、長い黒髪がお顔を隠しているからどんな子なのかよくわからなかった。泣き声は聞こえなかったけど、パパやママに比べてすごい小さい体がヒクヒクと動いていて、しょっぱいにおいがしたから泣いていることはわかって、僕は咲ちゃんが抱えてる足の側で座った。犬だから「大丈夫?」って声をかけたいけど、「ワン!」としか言えない。でも、咲ちゃんはぼくの声で少し顔を上げてくれた。少し茶色い、大きな目は涙で濡れていて、目元は赤くなっていた。
「咲、新しい家族だ。」
パパが咲ちゃんにそう言って、僕を紹介した。僕は、咲ちゃんがこっちを見てくれたことが嬉しくて、自分でも尻尾がものすごく早さで揺れていることがわかった。
咲ちゃんは僕にゆっくりと手を伸ばしてきた。でも、すぐに引っ込めて、そして小さな手をぎゅっと握り締めた。それからまた、開いて手を近づけてきた。そして咲ちゃんがゆっくりとぼくを撫でてくれた時、うれしくてうれしくてしょうがなくなった。
でも、撫でてくれていた咲ちゃんは、急に撫でるのをやめてしまったので、僕を寂しくなって「きゅーん」という声が出した。
そんな僕を、咲ちゃんは抱き上げて優しく抱きしめた。ちょうど、僕の顔と咲ちゃんの顔が近くにくる位置だったから、涙を舌で舐めて拭いた。しょっぱいけど、泣いている姿は見たくなかったから。咲ちゃんは驚いた顔をしたあと、少しだけ笑った。
すると突然嗚咽が聞こえた。びっくりしてその方向を見るとママが泣いていたので、さらに驚いた。
後で、ママから「咲を笑わせてくれてありがとう」と言われた。それで、僕はさっきのは悲しくて泣いたんじゃなくて嬉しくて泣いたんだってわかった。
こうして、僕たちは家族になり、咲ちゃんも笑顔が増えていった。
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あくびをくわぁっとして、僕はお昼寝から目が覚めた。僕は咲ちゃんとはじめて出会ったときの夢を見ていた。もうあれから何年も経つから、小さい咲ちゃん今はあんなに大きくなるなんて感慨深いなと思った。しばらく、お昼寝から覚めた余韻に浸っていると、あれ?って思った。
いや、今でなんで疑問に思わなかったんだろう?その方が不思議だ。今いる場所は僕の知っている場所じゃなくて、全く見覚えのない真っ白な空間で、何もない。まだ、夢なのかなぁ?
「夢ではありません」
へっ?急に声が聞こえたびっくりした。急いで、あたりを見渡したけど誰いない。
「知恵と知識が無事定着したようですね」
どういうこと?
「私は、とある理由から知恵や知識をあなたに埋め込ませてもらいました。あの世界の犬はもちろん感情はありますが、今のあなたや夢の中のあなたのように人間のような複雑に考えることはできません。でも、あなたは今も夢の中でもそれができている。つまり、埋め込みが成功したのです」
埋め込みってなんか怖いよ...
何でそんなことしたの?それにあなたは誰?
「私はとある世界で神と呼ばれる存在です。あなたには、私たちの世界を救っていただきたくて、あの世界でも使える知恵や知識を埋め込みました。薄々気がついているかもしれませんが、今からあなたには、私たちの世界へ行っていただきます」
正直、知識と知恵をくれたって言ってたけど、よく言ってることが理解できないよ。
でも、他の世界に僕を連れて行こうとしてるってことだよね?もし咲ちゃんがいいよって言ったらなら、咲ちゃんと一緒にその世界に行っていいよ
「申し訳ないのですが、一緒には行けません。あなただけです」
じゃあ、絶対に行かない!違う子にお願いして。
咲ちゃんには僕が必要なんだ。一人にできない。
「違う者ではダメなのです。私は色々な世界を見て、あの世界を救う確率が高い者を探しました。それがあなたなのです。だから、お願いします。」
神様の声が弱々しくて心配になったけど、僕も譲るわけにはいかない。もう一度、断ろうとした時、ぐらぐら揺れはじめた。
「時間がないので、急いで話します。私は、私たちの世界の者に嘘の予言を話しました。世界を救う者を、違う世界から連れてくると。ですが私は、力の大半を失っています。予言をする力などありません。だから、あなたに頑張っていただくしかないのです。あの世界を救ってください。そうすれば、私の力も戻り、あなたを元の世界に戻せます。だから、どうかお願いします」
ちょっと、待って。ダメだ!僕がその世界にいる間、咲ちゃんの側にいられないってことでしょ?咲ちゃんには僕が必要だし、僕は咲ちゃんに離れたくない。だから、お願いだから、違う子に頼んで。お願いだから...
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目が覚めて最初に目に入ったのは、白いタイルだった。僕の家の床は木でできたもので、ここにある白いタイルなんかじゃない。驚いて顔を上げると、僕をたくさんの人が囲んでいて、「救世主がきた」と喜んでいる。しかも、その人たちは僕みたいな耳や尻尾が付いているのに、顔や体は咲ちゃんたち人間と同じだ。
僕は呆然として固まってしまった後に神様に会ったことを思い出した。もしかして、本当に咲ちゃんがいない世界に来てしまったんだろうか?愕然として、目線を落とした先には小さな手があった。僕が驚いて、前足を動かすとそれも動いた。そして、僕はそれが僕の意思で動いているのだと気がついた。
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