第十八話 「いいの買えたぁ?」 言ってしまったら意味がない。
「ついに終業式だな」
「寒そうだよなぁ……」
テストの順位掲示から二日後。
十二月二十二日水曜日。
いよいよ終業式で、明日からは冬休みだ。
これから式が行われるので、体育館に移動をしているのだが、きっと寒いだろうなと思う。
これで雪がまだ降ってないんだから不思議で仕方ない。
「クリスマス楽しみね」
「だよねだよね! プレゼント交換用のプレゼントもう買った?」
「買ったわよもちろん」
麗と琴羽は終業式そっちのけでクリスマスパーティーのことを話しているようだ。
だいたいの学生はこんなもんだと思う。
「そっちも楽しそうなこと考えてんな~」
「高校初のクリスマスだしな。楽しんでかないと」
祐介は姫川さんとデートだしな。
それもそれで羨ましいが、俺と麗はイブにデートするからいいんだ。
ちなみに、なんで祐介が姫川さんと今一緒にいないかと言うと、単純にクラスが違うからである。
体育館に入ると、廊下よりは暖かく、これならなんとか大丈夫そうな感じだった。
「思ったよりあったかいな」
「だな」
俺たちは決められた場所に座る。
しばらくすると先生の挨拶が入り、終業式が始まった。
校長先生の長い話やらなにやらいろいろあったが、内容はよく憶えていない。
まぁこんなもんだろう……。
気が付いた時には終業式は終わり、俺たちは教室に向かって歩く。
教室に着くとホームルームになり、課題の話や注意事項などを聞かされる。
一学期と大差はない。
それらを終えると今日はもう終わり。
冬休みの始まりだ。
「康太、ことちゃん帰りましょう」
「おう」
「は~い」
「俺、ショッピングモール行きたいから踊姫駅で降りるわ」
「わかったわ」
教室を出て、生徒玄関に向かう。
靴を履き替えて、踊咲高校前駅まで歩いた。
「ちなみに何買うの?」
「まだプレゼント交換用の買ってないんだ」
「康ちゃん金曜日以外バイトばっかりだったもんね~」
「それはお疲れ様だったわね」
連勤になるのでさすがに金曜日は休みにさせられたが、それ以外はバイトに捧げたんだ。
そこそこ稼げているだろう。
たしかに疲れたが、なんだか充実した気分だった。
クリスマスパーティーが待ってるからかな。楽しかったし。
「二人はもう準備できてるんだろ?」
「任せて頂戴」
「大丈夫だよ!」
妹たちも準備できていると麗は言った。
なら後は俺だけなんだな。
ま、買いに行くのはそれだけじゃないんだけどさ。
電車が着いたので、俺たちはその電車に乗り込む。
雑談をしていると、咲奈駅に着いた。
「またねことちゃん」
「またな」
「またね~!」
今日は琴羽だけが降りて俺は麗と一緒に踊姫駅に向かう。
こうして制服で踊姫駅まで向かうのは何気に初めてだった。
なんだか制服デートでもしてるような気分になる。
「なにそわそわしてるの?」
「なんか制服デートみたいだなって」
「康太からしたら寄り道だものね」
麗からしてみればただの帰り道なんだよな。
麗の家、最寄り駅が踊姫駅だし。
「イブはどこに行く?」
「そういえばまだ決めてなかったな」
イルミネーションを見るってのがまぁ普通なんだろうけど、俺たちは昼からの予定だからな……。
クリスマスの昼からってなかなかないよな……。
何をするのが正解なんだろうか。
「普通にゲームセンターとかで遊ぶ?」
「なんかクリスマスっぽさがないな」
「けど、昼間って何してるのかしらね?」
「う~ん……」
やっぱりわからない。
「でも、あたしたちってあんまり二人で出かけたことないじゃない?」
「水族館くらいだもんな」
「だから、なんでもいいと思うの」
麗はそう言って微笑む。
たしかに、俺たちが二人きりでデートをした機会はほぼない。
どこに行っても新鮮な気持ちになることは間違いない。
「でも、せっかくだからってのもあるんだよな」
当然麗に喜んでもらいたいという気持ちがある。
適当にその辺でというわけにはいかない。
「そんなに気にしなくていいのよ? あたしは康太とならどこでも楽しめるわ」
「麗……」
変に見栄を張る必要もないのか。
「じゃ、いろいろ回りますか!」
「その意気よ」
ショッピングにゲームセンター、適当なところで休憩したりとか。
何にもないけど、普通の一日。
そんな日でも、いいんじゃないかと。
「ほら、駅に着いたわよ」
「おう」
電車を降りて、途中まで一緒に並んで歩く。
やはりどこか制服デートのようで、緊張していたが、なんだか楽しかった。
「じゃ、あたしはここで。イブ、楽しみにしてるわ」
「わかった。また連絡する」
「ふふっ。それじゃ」
「おう」
俺はショッピングモールの方に足を向けた。
ショッピングモール内は主婦らしき人が多く、子ども連れの人も多い。
学生は見る限りおらず、まだ早い時間なんだと今更ながら実感する。
「さてと」
まずはプレゼント交換用のプレゼントでも用意しようか。
心優、麗、七海ちゃん、楓ちゃん、琴羽、千垣、真莉愛ちゃん。
俺以外みんな女の子なんだよな……。
自分に自分の買ったプレゼントが当たれば普通はやり直しになるだろうし、女の子が喜びそうなものを買うべきなのか。
「…………」
むっず。
いや、女の子が喜びそうなものって言われても困るよ。
だって誰に当たるかわかないんだろ?
妹の心優に当たるかもしれないし、彼女の麗に当たるかもしれないし……。
「う~ん……」
ダメだ思いつかない。
あ、そういえば楓ちゃんはサメのぬいぐるみ買ったりしてたな。
七海ちゃんも買おうかなって言ったりしてたし、麗もそういうのが好きなんじゃないか的なことも言ってたな。
そう考えていると、自然とぬいぐるみのコーナーに目が行く。
かわいいくまのぬいぐるみが目に入った。
すごくもふもふしてそうで、大きさもちょうどいい感じだ。
「いいかも……」
俺はそのくまのぬいぐるみを購入し、プレゼント用に包んでもらった。
次に俺はアクセサリーショップに入った。
これがもう一つの用事だ。
目の前には様々なアクセサリーたち。
やはりどうしても何がいいのかと考え込んでしまう。
そう、麗へのプレゼントだ。
「イブに……」
イブに渡すことになるだろうけど、どこのタイミングでどのようなものを渡せばいいか。
すごく考えてしまう。
とりあえずよく見てみようと手を伸ばす。
すると、横から誰かの手が伸びてきた。
「あ、すみません」
「いえ、こちらこそ」
「あれ? 鳩ケ谷先輩?」
「君はたしか、神城くんでしたよね?」
学園祭実行委員長だった鳩ケ谷鈴香先輩だ。
学園祭以来学校の廊下でホントたまに見るくらいだったが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。
「俺のこと憶えてるんですね」
「もちろんです。学園祭は楽しめましたか?」
「はい。とても」
「それはよかったです」
鳩ケ谷先輩は満足そうに頷く。
なんだか大人な感じだなぁ。
「鳩ケ谷先輩はここで何を?」
「アクセサリーを買いに来ました」
「そ、そうですよね……」
アクセサリーショップなんだからそれはそうだ。
「神城くんはここで何を?」
「実は、彼女に渡すプレゼントを考えてまして……」
「それはいいですね。藍那さんですか?」
「どうしてそれを……?」
麗はたしかに有名な人だ。
でも俺と付き合っているということまで知っている人がそういるとは思えない。
ましてや三年生になんてなおさらだ。
「学園祭実行委員で一緒だったからそうなのかと思いました」
「あ、なるほど。でも、あの時はまだ付き合ってなかったんです」
「では、あれがきっかけにもなったんですね」
「そうなりますね」
弟か小さい子を見守るような瞳で見つめられる。
やっぱりなんか大人っぽい。
「よろしければお手伝いしましょうか?」
「え、いいんですか?」
「私なんかでよろしければ」
「とんでもないです!」
正直、学園祭実行委員としてしか話したことのない先輩だ。
でも、なんだかこの人なら大丈夫なような気がする。
信用できるというか、お姉さんっぽいというか。
「ちなみにどんなものを買おうと?」
「それがまだ決めてなくて……。イヤリングをあげたりはしたんですけど……」
「それならブレスレットなどはどうですか?」
「ブレスレットですか?」
手首に付けたりするやつか。
手を繋いだ時に、そのブレスレットが……。
あ、なんかいいかも……。
「あ」
「どうしました?」
「いえ……」
これじゃあ俺が喜んでいるだけじゃないか。
そうじゃなくて、麗に喜んでもらうんだよ。
七海ちゃんにも言われたじゃないか。
「嫌ならこっちのネックレスはどうですか?」
「なるほどネックレスですか……」
薦めてくれたのはゴールドのネックレス。
麗の綺麗な金髪の色と合ってすごく似合うと思う。
「ネックレス、もうちょっといろいろ見てみます」
「そうですか? お役に立てたようでよかったです」
「ありがとうございました」
「どういたしまして。それじゃあ私はこれで」
「はい」
そう言うと、鳩ケ谷先輩はお店を出て行った。
「あれ? 何か買いに来たんじゃなかったっけ……?」
ま、まぁいいか……。
俺はそのまま隣のネックレスを見てみる。
ピンクゴールドのネックレスか。
ほかにもシルバーのものやプラチナまであった。
「やっぱりゴールドかな」
麗が付けているのを想像してみると、ゴールドが一番しっくりきた。
あのイヤリングも付けている時のことを考えると、なおさらゴールドが似合う。
鳩ケ谷先輩に改めて感謝をしつつ、俺はそれをレジに持って行った。
※※※
「ただいま」
「おかえりぃ」
キッチンに顔を出すと、心優がエプロンを着てすでに料理を作っていた。
今日はバイトがないが、心優が当番なのでゆっくりさせてもらおうと思う。
クリスマスまでバイトの休みが続くのでありがたい。
「いいの買えたぁ?」
「中身は言わないからな?」
「わかってるよぉ」
たぶんスープだと思うが、それを作りながら俺の手にある袋をちらりと見る。
「麗さんのも買えたぁ?」
「それはばっちりだ」
「ならよかったぁ。お兄ちゃん悩みそうだったから心配だったんだぁ」
「うっ……」
悩んでいたのは事実なんだけど……。
結果的に鳩ケ谷先輩とたまたま会えたからよかったものの、こうなるなら誰かに手伝ってもらうべきだったかな……。
「まぁ気持ちがこもってればなんでも嬉しいと思うけどねぇ」
「心優~」
「な、なにお兄ちゃんどうしたのぉ?」
とても頼りになる妹でお兄ちゃんはとても助かります……。
「これからも俺の妹でいてくれよ心優……!」
「永遠に妹だと思うけどぉ……」
次回、第十九話。
「もしかして、初めてなの?」 緊張に喉をゴクリと鳴らした。
更新は明日。12月2日です。




