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第二話 ヒロイン役から逃げたい私は、家庭教師を雇います

 第一話も更新しています。

もし読んでいないのであれば、第一話「ヒロイン役から逃げたい私」をお先にどうぞ。


乙女ゲームに参戦しないようにするため、まず第一に考えたのはマナーや勉学を先に学ぶことだ。


 確かゲームの主人公は半年間家庭教師も付く事なく、なんの事前知識のない状態で学園に送り込まれている。主人公は学園で平民の作法で振る舞っていたため、攻略対象たちに目を付けられたのだろう。攻略対象たちにとって、彼女の振る舞いはとても物珍しかったはずだから。

 だが私は分相応な生活を送りたい……そのためには目を付けられない事が大切。つまり事前に家庭教師から教わる事が大事なのではないか、と考えたのだ。

 

 そんな時に男爵から「半年後に学園に入学するよう手続きをした」と話があった。


学園入学前までに、マナーや礼儀の勉強が出来る事を期待したが、男爵は「学園に入学するように」と述べるだけ述べて食事に専念し始める。普通に考えれば今まで平民として生きてきた私に、マナーも礼儀も教えないまま貴族の学園に通わせるというのは……無茶振りだろうに。そんな事も思いつかないのだろうか、この男爵は。


 だから私は、男爵にお願いをする事にした。

 

「男爵様、お願いがございます。マナーなどを学園に入学する前に、習いたいのですが」


 その言葉に反応したのは義兄のマーク様と男爵だった。マーク様は目を見開いて私を見つめている。一方で男爵はそう発言した私を一瞥して眉を顰めた。


「学園で学べるから要らないだろう」


 そう言って食事に集中し始めた男爵は、もう私の言葉など聞く気がないと態度で示している。男爵夫妻は元から私に興味がないのは理解していた。彼らは養子を取る事で王家の目に止まる事、「王家の覚えもめでたい男爵家」になりたかっただけなのだ。この時点でもうその目標は達成しているのだから、後は学園に放り込めばいいとでも思っているのだろう。


 どうしようか……と悩んでいると、思ってもみないところから助け舟が出た。マーク様である。


「父上。お言葉ですが……レクシーが何も分からない状況で学園に入学する事は、我が男爵家の評判に関わると思うのですが」


「……ほう?」


「今、我が男爵家はレクシーを養子に入れた事で王家や他の貴族から一目置かれている状況だと思われます。しかし、レクシーは元々平民です。学園に入学した後に、礼儀を知らないことで他のお方にご迷惑をかける可能性も否定はできません……レクシーは半年間我が家に滞在している事実があります。半年もあれば最低限の礼儀を教えることくらい可能だろう、と思いませんか?他の貴族はそう思うはずです……もし、彼女が失態を犯した時に、その矛先が向くのは我が家、いえ男爵の責任になるのではないでしょうか?」


 期間が短いのであれば、「仕方ない」で済むが、半年間も猶予がある今私が学園で過ちを犯したら、男爵の評判に傷が付く可能性があるという事をマーク様は言いたいらしい。少し考えれば当たり前な事だが、男爵は気づかなかったのだろう。

 その言葉を聞いた男爵は、立派な髭を右手で摩りながらしばらく思考に耽っていたが、マーク様の意見に納得したようだ。「家庭教師を手配しておく」とぶっきら棒に返事を返し、奥様を連れ立って食堂を出て行った。


 私は助言してくれたマーク様を一目見ると、丁度こちらを見ていた彼と目があう。「ありがとうございます」と小声で一声かけると、彼は「どういたしまして」と言わんばかりの笑顔を見せ、食事に戻った。



 その話が出た数日後、私の元には女性の家庭教師が二人ーーマナーと礼儀を教える元伯爵令嬢のメアリ先生と、現宮廷魔道士として活躍しているアナベル先生ーーが訪れることとなった。礼儀作法の先生は週に三回、魔道士の先生は週に一回。後々聞いたらこのお二方は王家から派遣された方達らしい。


 宮廷魔道士のアナベル先生には魔法のことだけではなく、宮廷魔道士の仕事内容の事についても教えてもらった。宮廷魔道士と言っても、防衛部・研究部・育成部等々……様々な部署があり、初めは育成部で研修を一年受け、その後適性を考慮して様々な部署に配属されるとのこと。学園の図書室には、宮廷魔道士について詳しく書かれている書籍があるらしく、そのことも教えてもらった。


 礼儀作法のメアリ先生には礼儀作法だけではなく、学園や王家の事についても教えてもらう。


「現在、王族の方々が通われているのはご存知?」


「はい、第二王子のナルディス様が一学年上に在籍されているのは知っています」


「そうね、貴女の一学年上には第二王子が……そして二学年上には第一王子が在籍されているのよ。ちなみに、何故第二王子が継承権第一位とされている理由は知っているかしら?」


「いえ、知りません」


 むしろ第一王子が同じ学園に通っているとは思わなかった。

 ちなみに継承権の件はメアリ先生曰く、第一王子は側室の第一子だかららしい。この王国では母親の位により継承権が決まり、第二王子は正妃の第一子なので継承権が一位になっている。正妃の男子、第一側室、第二側室……の順で継承権の順位がつけられている。ちなみに側室には子どもが二人おり、もう一人は妹らしい。学年で言えば、私の2個下なのだとか。

 へえーと思っていると、先生はマーク様(義兄)の事も教えてくれた。


「ちなみに貴女のお兄様は、第一王子と懇意な間柄らしいわ」


「マーク様が……ですか?」


「ええ。貴女のお兄様は第一王子と同い年で成績も彼と張り合うくらい優秀よ。生徒会にも所属していて、第一王子が生徒会長になってからは、副会長として働いていたはずよ」


 なんでも、マーク様は第一王子に「男爵位にしておくのは勿体ない」と言わせた人物で、学園でも信望を受ける存在らしい。元々彼はムーア男爵家の跡取りとして領地経営を学ぶために学園に入学したのだが、第一王子の勧誘を受け現在は学園に通う側、文官見習いとして王宮に顔を出したり、領地経営も男爵から引き継いでいる最中であるらしい。

 

……そもそも、マーク様はとても気にかけてくれるが、腰を落ち着けて話した事がない。もしお茶ができる時間があれば聞いてみようかと思う。


 ちなみに先生から男爵家での生活を聞かれたのだが、先生は私が男爵と奥様に放置されている事を気づいていたそうだ。そうとは知らず「マーク様にはよくしてもらっています」と答えたところ、苦笑いをしつつ養子の裏話をこっそり教えてくれた。


 実はこの国で魔力の多い平民を養子に取ると、補助金が与えられる制度があるそうだ。覚えがめでたいだけかと思ったら、それ以上に優遇措置があるそうだ。

 

 まず養子を引き取る際に補助金を貰える上、入学金や授業料は王家から補填されるので実質金銭面での負担はない。あるとすれば、引き取ってから学園に入学するまでの期間の生活費や、制服等の入学する際に必要な物資は男爵家が請け負うため、養子縁組ができる貴族はある程度裕福な家に絞られる。

 そして元平民であるため、下位貴族ーー良くても子爵までーーの中から立候補で選ばれるそうな。たまにある事例では、補助金を手元に多く残そうとしたがために、養子には学園で必要な物資を最低限しか購入せず、入学前まで家で働かせていた貴族も過去にはいたらしい。


「養子を取れば王家から目をかけられるのは事実だけれども……その後どのように行動するのかを王家が見ている事に気づいていない貴族が多いのよね。まぁ、ムーア男爵家は貴女の義兄さんがいるから大丈夫でしょうけど」


 とため息をつきながら先生は話す。言葉を濁しているが、「マーク様は優秀で男爵は……(以下略」と言う事が私にも理解できた。


 もし先生の言っていた事がゲーム上でも適応されるならば、男爵は家庭教師を雇う分の代金や、そのために必要な衣服代などの細々としたお金をピンハネしていたのかもしれない。正直に言うと、男爵はお金や地位権力にしか興味がない人間に見える。最低限与えれば良いだろうと思っていても不思議ではない。


 今回だって私が「勉強したい」と言ったからマーク様も助言してくれた訳であり、私が言い出さなければ家庭教師を付ける気など更々無かっただろう。私は記憶があったからお願いする事ができたけれど、もしゲームの主人公だったらそもそも「勉強する」という発想すら思い付かないだろうし。

 

 ゲーム内の攻略対象が主人公に興味を持つ切欠が「平民の振る舞いが目新しいものだった」事を考えると……兎に角、私はゲームの主人公と同じ状況になるのだけは避けたい……ならメアリ先生やアナベル先生からの教えを半年間片っ端から吸収していくだけだ。どこまで出来るかは分からないが、主人公と同じルートを辿らないようにするため、まず私は勉強に励むだけだ。


 短編の内容までは1日二話更新する予定です。よろしくお願いします。


 この先、読んでみたいな、と思って頂いた方は是非ブックマークもお願いします。

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