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第十四話 ヒロイン役から逃げたい私は、背筋に冷たいものが走る

  ルーベン殿下と二人の時はグレース様の話をし、グレース様とルーベン殿下とご一緒する時は勉強や魔法を教えてもらうという流れができ始めた頃。その頃になると、私は「ルーベン殿下とグレース様が懇意にしている男爵令嬢」と噂されようになった。


 そしてイベント回避がやり易くなった分の時間を、勉強にまわす事ができるようになったため、初めての学期末テストでは勉学、実技ともに10位以内を取るまでに成長した。「将来を約束する」とグレース様は仰って下さったが、彼女の推薦に恥じないように努力することも忘れない。その努力を一番認めてくれているのが、お兄様だった。



 夏休み。私は男爵家に帰ることはせず、引き続き寮に籠もって勉強をこなしていた。と言っても大体は、図書室で様々な本があるので読み耽っていただけだが……。自身が理解できる範囲の魔術や礼儀作法系の本はほぼ読み終わったと言っても過言ではないので、お兄様に相談してそれ以外--たとえば地理歴史など--の書籍も目を通していた。


 ミリアは夏休みも飽きずにイベントをこなしていたらしい。

 グレース様には、以前ミリアから忠告を受けた件を話しておいたのだが、「ああ、その事も知っていますわよ。彼女には関わらない方が良いと思いますわ」と言われてしまった。そのため、彼女の動向を詳しく知ることはできないが、グレース様が言うには、攻略は上手くいっているようだ。


 そんな私だったが、後期になってから周囲の目が変わっている事に気づいた。

 前期は平民上がりの貴族として、遠巻きにされており、友人らしい友人も居なかった。最初はミリアが声をかけてきたが、それ以外で声をかけるのはグレース様とお兄様とルーベン殿下くらいだったのだが……。


 勿論、「平民の癖に生意気だ」と陰口を言う学生--特に男子学生で僻んでいるのかもしれない--もいるのだが、グレース様が懇意にしている、と言う事もあり、私の印象を少しでも良くしておこうと考える人が多いようだ。軽い挨拶や会話程度ではあるが、クラスメイトと話す事も多くなった。

 それに、成績が良かったと言う事もあり、理解できない内容を教えて欲しいと聞いてくる人もいた。あとは、グレース様のご友人方や彼女の後輩など、グレース様と関わる事により彼女繋がりではあるが、様様な人と会話をするようになっていた。

 あとは驚くべき事にグレース様のご友人方にお茶会に誘われた事もあった。とても緊張したけれど、ご友人方にグレース様とルーベン殿下の生徒会での様子をお話ししたところ、頬を染めて恋する乙女のように話に聞き入っている。お茶会が日本で言う女子会みたいになっていた。



 一方、ミリアの評判はだだ下がりである。


 攻略対象は高位令息ばかりな上に、校庭など人目のあるところで彼らを侍らせているのだ。それだけではなく、噂によると腕に抱きついていたり、顔を近づけて話したりと、淑女にあるまじき行動ばかり目撃されているようだ。

 ……乙女ゲームに抱きつく場面は無かった気がするのだが、攻略対象がミリアに懸想しているからそんな事ができるのだろう。

 クラスメイトもミリアと会話をしないように遠巻きに見ているし、ミリア自身も休憩時間はすぐに教室から出て行ってしまう。勿論、行く先はナルディスたちの元かシュニッツの元である。女学生からは「まるで娼婦のよう」と陰口を叩かれているし、男子学生の中でも顔を顰める者も多い。残念ながら、相手が最高位の権力を持つ第二王子なので、表立って言える人がグレース様しかいないのだが……彼女も第二王子に避けられているため、誰も注意できないのが現状だ。


 淑女たれ、とミリアに注意した教師が、後日第二王子から「ミリアは淑女だ。俺たちの交友関係に口出しするな」と怒った事で、学園側も手が出せなくなってしまったなんて噂も出回っていた。



 そんな時だ。ミリアが図書室に顔を出したのは。

 

 その日、私は生徒会の仕事でグレース様に過去の生徒会活動が記録されている本を持ってくるようにと指示されていた。図書室の奥の資料室で本を探し出し、カウンターにいた図書委員会の学生にグレース様から本を借りてくるように頼まれた、と話をしていた時だった。

 見覚えのあるリボンが目の端を横切り、礼儀作法の書籍が並ぶコーナーに入っていく。ふと顔を上げると、そこにはミリアが本を取ろうと爪先立ちで手を本に伸ばしていた。

 そして後ろから、ルーベン殿下が彼女が取ろうとしていた本に手を伸ばす。


 隠しキャライベントじゃないの、これ。そう思っても仕方がない。

 隠しキャライベントは、出会いイベントの前に図書室に来ていないと発生しないイベントだとグレース様は言っていた……もしかして、私が図書室に来ていたから、イベントが発生するようになってしまったのか……?

 しかし、この間イベントはこなしたはず。そう思った私は、話していた学生に資料を預け、ルーベン殿下とミリアがいる棚の向かい側にある魔法書コーナーで少しだけ聞き耳を立てる事にした。

 ルーベン殿下なら気づきそうだが、後で謝れば問題ないだろう。


 丁度棚の反対側に着くと、彼らが話している最中だったらしい。


「はい、この本かな?」


「あ、ありがとうございます。助かりました!」


 棚の隙間から瞳をキラキラ輝かせてお礼を言っているミリアが見える。ルーベン殿下の表情は分からない。だが、その後のルーベン殿下の声に私は固まった。


「どういたしまして。……ちなみに君はその本を借りてどうするの?」


「あ、えっと……読もうと思って……」


「そう。頑張ってね」

 

 彼の顔は見えなかったが、私は背筋が凍るような思いをした。ルーベン殿下の声色がこれ以上ないくらい冷たい声だったからだ。ミリアもその事に気づいたのかそのまま本を棚に返し借りずに帰って行った。


 ここで疑問に思う。「あれ?これはイベントじゃないのか?」と。ミリアとルーベン殿下の出会いイベントではあるが、あまりにもあっさりしている。本当にイベントなのかな?と思うくらいだ。



 後々、彼にミリアについて聞いてみると


「ああ、彼女か……ベイリー嬢は弟や従者が懸想している相手だと言われているだろう?だから影にお願いして調べさせていたんだ。そしたら、魔力も勉学も最下位から数えた方が早いって言うじゃないか……手に持っていた本は一年の後期に習う内容だから、彼女が読んだところで理解できないと思ったんだよ」


 影ってそこまでできるんだ……と思いつつ、ルーベン殿下はミリアが全く勉強する気がない事を見抜いていたようだ。ミリアの評価がプラスどころかマイナスである事が分かった。だが、ふと気づく。私もあの本を入学式後に手にしていた気がするんだけれど。不思議に思って聞いてみる。


「ああ、君のことはアナベル先生から話を聞いていたからね。以前非常に優秀な生徒がいると目を輝かせて話していたよ。だから君ならあの本くらい読めるだろうと思ってさ。勉強する気があるなら、他に本を紹介しても良かったけど……ベイリー嬢はそう見えなかったからね。弟はよくあの女性に懸想しているよね。私はグレース嬢みたいに勤勉な女性が好きだな」


……うん、最後は聞かなかった事にしよう。お惚気ご馳走様でした。ちなみにこの言葉はグレース様も聞いていたようで、耳まで赤くなっている。それを満足げに見つめるルーベン殿下を見て、「青春してますね〜」と思わず口に出てしまったのはご愛敬。

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