表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

逃げろヒロイン

ヒロイン、(攻略せずに)逆ハー達成?

作者: 笛伊豆

スマホゲームはやったことありません。

 ここ、花恋の世界じゃない?

 私は立派な正門の前で立ち尽くしていた。


 花恋。

 「花と恋人たち」はスマホゲームだった。

 いわゆる乙女ゲームではあるが、粗製濫造というかタイトルのラインナップをとりあえず揃える必要があってでっち上げました、という裏事情が見え見えのクソゲーだ。

 ダウンロードは無料で課金はあるにはあるけど誰も使わない。

 というのはゲームがひどく単純なのだ。


 プレイヤーは「王立フラワー学園」という貴族しか通えない学校に入学してイケメンを攻略する。

 それだけ。

 そのイケメンも俺様、ヤンデレ、脳筋、ショタの4人しかいない。

 全員が王族か高位貴族の御曹司ではあるけど細かい設定などなくて、ただ会話していたら堕ちるというイージーさ。

 ただ攻略条件が難しくて、ちょっとでも間違えるとその場でジ・エンド。

 リリースされて流行ることなく消えていった泡沫ゲームだった。


 私は転生者である。

 ていうかついさっき、フラワー学園の校門を見た事で前世が蘇った。

 前世はブラック企業に勤める日本人で過労死したみたい。

 いや、自分が死んだシーンなんか覚えてないし。

 名前や家庭環境も朧気だが「花恋」を覚えているのには訳がある。

 これ、私が前世で唯一やった乙女ゲームなのだ。


 社畜として毎日仕事以外の事が考えられない状態だった私は出勤して仕事して帰宅して寝る生活が続いていた。

 身体が丈夫だったのでくたばりはしなかったが他に何をやる暇もなかった。

 唯一の余暇が満員電車の中だった。

 スマホで暇つぶしするだけだった私はある日、間違って「花恋」をダウンロードしたのだ。


 無課金でやり込んだ。

 だってスタートからエンドまで30分で出来る。

 フラグ立ての必要もない。

 ヒロイン(名前変更可)がフラワー学園の入学式で生徒会役員として出てくる4人の攻略対象のうちの一人を選ぶと自然に遭遇するから話していたら堕ちる。

 悪役令嬢もいるけど障害にならない。


 もっとも攻略条件が難しくて滅多にハッピーエンドにはならないんだけど。

 攻略対象が卒業パーティで婚約破棄を叫んだら勝ちだ。

 ちなみに逆ハーは出来ない。

 スマホゲーだからそんなに複雑な事をやっている余裕がないんだよ。


 そもそもセーブ/ロード機能がないから始めたら終わるまでやるだけだ。

 人間関係も単純化されていて、例えば攻略対象は全員生徒会役員で2年生。

 ヒロインは1年生。

 先輩を攻略することになる。

 入学して1年かけて攻略するんだけど、会話以外はすっとばすから早いの何の。


 その会話もほぼ攻略対象とだけ。

 選んだ時点で他のイケメンがヒロインの視界から外れる。

 何か制作側によほどの事情があったんじゃないかと。

 ストーリーとかプログラムの方で。

 というのはビジュアルは凄く綺麗だったんだよ。

 だから私ものめり込んだんだけど。


 というわけで冒頭に戻るが、今日はフラワー学園の入学式だ。

 私は新入生で、つまりゲームスタート。

 名前もデフォルトのヒロインだしね。


 冗談じゃない。

 私みたいな下級貴族の娘が王族や高位貴族の御曹司を攻略してどうする。

 そもそも「花恋」って婚約破棄で終わるんだよ。

 その後、どうなったのか判らない。

 間違いなく碌な結果にならないはずだ。


 だってそうでしょう。

 いくら王族や高位貴族の御曹司だったとしたって家同士の約束である婚約を勝手に破棄するんだよ?

 悪役令嬢小説で散々書かれているように、どう足掻いても破滅だ。

 御曹司の方は悪くても廃嫡で済むかもしれないけど、ヒロインは下級貴族の娘だ。

 下手すると家ごと潰される。

 そこまでいかなくても、下級貴族の分際で畏れ多くも王子殿下や御曹司にコナかけて無事でいられるわけがない。

 つまり、ストーリーに従ったら破滅一直線。


 だから私は入学式に出ないことにした。

 講堂へは行かずに裏庭に回る。

 そこはエアスポットというか、滅多に人が来ない盲点になっているのだ。

 他の場所だと攻略対象の誰かに遭遇する可能性がある。


 入学式に出なくても学業には支障がないはずなので、とりあえず攻略対象に遭わないようにしてやり過ごすべし!

 幸い、貴族としての位階は低いけど私の実家は裕福だ。

 領地は辺境だけどその分広いし商売も上手くいっている。

 私は三女なので婿を取る必要もない。

 どこかに嫁に行くか、あるいは商売の手伝いでもすれば安楽に過ごせるはずだ。


 そう思って裏庭に来たのに、なぜ?

 どうして攻略対象に囲まれてるの?


「我々に何か用か?」

 第三王子殿下がおっしゃる。

 ゲーム通りのビジュアルだけど何かやつれていて、俺様キャラとは思えない。


「迷子なの? こっちは講堂じゃないよ」

 侯爵家の次男のはずのショタが教えてくれる。

 何か甘さが消えている上に暗い。


「悪いが送ってやれない。すまん」

 宰相の甥であるはずのヤンデレがヤンデレじゃなくなっている!


「俺たちに関わらない方がいいぞ」

 騎士団長の孫な脳筋が脳筋とは思えない思慮深そうな口調で言う。


 どうしちゃったの、みんな?


 思わず聞いてしまったら教えてくれた。

 何と彼らは去年、つまり1年生の時に同級生(クラスメイト)だった令嬢に攻略されたのだそうだ。

 知らない名前だった。

 つまりゲームキャラじゃない。


 その令嬢は私と同じく下級貴族出身であったにも関わらず彼らに巧みに取り入り、何と逆ハーを成し遂げたという。

 そして学園の卒業パーティで彼らはやらかしてしまった。

 全員が婚約破棄。

 当然大騒ぎになり、処分が下された。


「私たちは廃嫡処分」

「彼女は辺境の修道院に送られた」

「彼女の実家は爵位を剥奪されたそうだ」

「今となってはなぜあんなに入れ込んだのか判らん」


 さいですか。

 私は頭を抱えた。

 多分、ヒロインじゃない転生者がやらかしたな。

 ゲームより1年早く入学して。

 ケーム通りに攻略して回ったんだろう。

 スマホじゃないからイケメン全員にコナかけたと。


「でも皆さん、廃嫡されたのにまだ在学しているんですか?」


 疑問に思って聞いたら教えてくれた。

 フラワー学園は国が運営する貴族専門の教育機関で学費は無料だ。

 全寮制で生活のすべてを学園内で賄える。

 つまり貴族および貴族家の者なら在籍している限りは食いっぱぐれはない。

 攻略対象の人たちは廃嫡処分を受けたとは言ってもまだ貴族籍があり、学園を卒業もしくは退学になるまでは身分を保障される。


「私たちは行く所もないからね」

「手に職もないし」

「俺はもう騎士にはなれないが兵士としてやっていけるけど」

「行政官は難しい。王政府に目をつけられているからな」


 八方塞がりじゃないですか!


「大変ですね」

 うっかり同情して言ったら一斉にガン見された。


「レナルト家といえば大商家ではないか」

「確か領地に鉱山と港があって交易が盛んだと」

「騎士団も拡充中と聞いている」

「城下町の運営にも人手は必要だよね?」


 そして。


「「「「助けてくれないだろうか」」」」


 これって逆ハー?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ