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 私が前世を思い出したのはメイドとして王宮への就職が決定したときだった。

 そりゃもう絶望したわ。だって王子ハッピーエンドルートじゃないとメイドというモブは死んじゃう可能性が高いんだもの。あるときは魔王復活によって。あるときは実験台として。けれど就職氷河期の中、超優良な王都の城という職場の内定が出て、しかもこれまでのアネモネはその為に努力してきていた……というのもあって、いざとなれば退職・ギリギリまで王子ルートをいってやろうじゃんと御子様の発見を待ち望んでいたのだ。

 準備だって十全にした。悪役令嬢の贈賄罪は調べ上げたし、旧貴族院との癒着や悪役令嬢の父親が行おうと進められていた諸外国への極秘魔法技術の違法輸出の証拠も掴んだ。影の功労者は私である。だが私は名誉はいらない。御子様のハッピーエンドの先にどんなアフターストーリーはあるかは、生憎とファンディスク発売前に死んでしまった私には知りえないことなのだ。君主危うきに近寄らず。役目は終わったし、退職金にプラスされていろいろと先立つものをいただいたので辺鄙な村に引っ越してさあニューライフ! と思っていたところに魔王だよ。

 いや……まあ怪しいとは思った。

 掲示板にあった『住み込みでお世話係をお願いします』。簡素な用紙に目玉が飛び出るような月給は、この国の十~二十代女性の一般的な年収と同じだった。

 実を言えば、私は刺激に飢えていた。

 城でメイドをしていたころは国を揺るがす秘密を握ったり、時には内政に踏み込みすぎて命が危ない駆け引きをしたり、最先端の魔法論文の発表や文献は中央図書館で読めたし、貴族たちの恋の話に次々とうつろうドレスの流行など、毎日が楽しかった。

 だがあんなに憧れていた命の危険のない生活は、平穏といえば聞こえはいいが、新鮮さのかけらもない同じ毎日の繰り返しだった。マッドサイエンティストと違って研究できるほど専門的にやり込んでいるいることもないしね。

 だけど、だからって、魔王のお世話だとは思わないでしょうよ!





「事情があり、彼には幼児退行の呪いがかけられています」

 ノクスと対面し、唖然とした私にクロウは説明を加える。

「……え?」

 クロウの説明に首をかしげる。そんな設定はなかったはずだけど……王子ルートが確定して他が変わっているのかしら。

 魔王は二代前の国王の統治されていた頃に封印され、私たちは魔物たちに脅かされない平和を手にしている――という一般常識は違うということか。

「教会や医者の力でも解除はできず……私もどうにか元に戻ればと考えていますがその前に幼児の世話ができず、身内の事情ではありますがご助力を願い出た次第です」

「え、待ってください! 私は確かに御子様のメイドではありましたが……幼い子の……しかもその……どう見たって成人してらっしゃる男性のお世話って、そんなの……」

 私がノクスを魔王だと知っている、という事実を悟られぬように、なんとか辞退しようと後ずさる。しかしぎゅっとノクスに握られた手が振りほどけない。

「おねーさんが、おせわがかり?」

「いや、あの……」

 成人男性のうるうるとした懇願に、自分でも知らなかった扉が開きそうになる。だめだめそんな性癖!

「まずは、短期間でお願いできませんか? せめて三ヶ月見ていただきたい」

 困り果てていた私に交渉してきたのはクロウだった。私としては猛スピードで来た道を戻りたかったが、ノクスの傍にいるクロウという男もおそらく魔族なので逃がさないだろう。それに三ヶ月なら……と私も考え方を改めた。

 魔王ルートはうっかり封印をといてしまった御子様が、激しい嫉妬と執念から逃げ出しつつ受け入れつつ、とヤンデレが醍醐味なのだが、精神が幼児ならヤンデレにもならんだろ、と見越してのことだ。

 私はぎゅっと握り返した。

「よろしくお願いします、ご主人様、お坊ちゃま」

 それになによりも。

 ゲームで鉄面皮だった魔王がハニートーストのごとく頬を緩ませているのだ。こんなファンアートでしか見れないようなご都合主義の状態、見逃すわけにはいかないじゃない?


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