8 初めての依頼達成
「さあ着いた、ここが私とサラの家よ」
街の中へ入って約3分、すぐに到着した。
「サラにはちゃんと家で待ってろって言っといたから中に居るはずだぞ、早く行ってやれ」
「うん……」
サクラは頷いてから1度大きく深呼吸をしてからドアをゆっくりと開ける。
「ただい……」
「お姉ちゃーーーん!!!」
サクラがドアを開けた瞬間、何かが弾丸の如きスピードで飛び込んできた。
正体はもちろん泣いているサラだ。サクラの胸に抱きついてわんわん泣き声を上げている。
「ほらほら、ちゃんと帰ってきたんだから泣かないで……」
サクラは優しく抱きしめ、背中をさすっていた。
「……ヒック、もっと、早く帰ってくるって、言ったのに、全然帰ってこないから……うわあああん」
「ごめんね、ごめんね……」
結局2人して泣き始めるのを光輝は後ろでじっと見ていた。
(これじゃ1つ間違えれば俺が泣かしてるみたいになるだろ!)
そんなことを思いながら2人泣き止むのを静かに待つのだった。
「……おーい、もうそろそろいいかー?」
2人とも泣き止んでも離れる気配がなくしびれを切らした光輝はそう話しかける。
「あ、うん。ごめんなさい」
もはや忘れていたというように抱き合うのをやめたサクラと、目を真っ赤にしながらも満面の笑みを浮かべているサラがこちらに向いてくる。
「テルお兄ちゃん、お姉ちゃんを連れ帰って来てくれてありがとう!」
「気にすんな、これが依頼だからな」
「えーっと、テルさん? でいいのかな。立ち話もなんだから中へ入ってよ」
「おいでおいでー」
「んー、まあお邪魔するとするかー」
こうしてサクラ達の家の中へとお邪魔する。部屋は2人で住むにはそこそこの広さで、光輝はソファへ座るように促された。
サラはお茶のような飲み物を人数分用意して並べた後にサクラの横に腰を下ろした。
「では改めて自己紹介から。私はサクラ、この街でCランク冒険者をしているわ。こっちは妹のサラ。
今回は、助けてくれて本当にありがとう。あなたがいなければおそらく私は死んでいたと思う」
「テルお兄ちゃん、本当にありがとう!」
自己紹介と同時にまたお礼を言われてしまい、少し困ってしまう光輝である。
「俺はテルだ、よろしくな。お礼ならむず痒くなるからもういいよ」
「うーん、分かった! お兄ちゃんちょっと待ってね!」
そういうやいなやサラはソファから飛び降りて他の部屋へと消えていった。
「いきなりどうしたんだ?」
「さあ……」
2人がそんな会話をしている間にもサラはあるものを背に隠しながら戻ってきて光輝の前で立ち止まった。
そしてその背に隠した物を光輝へと手渡そうと見せてくる。
「お兄ちゃん、これ。依頼達成の報酬だよ!」
それはサラの両手に乗るブタの貯金箱だった。
「それはサラが大事に貯めてたお金じゃない! 報酬ならお姉ちゃんが払うから置いておきなさい!」
「ううん、これは私とお兄ちゃんの中でした依頼だからいいの!」
サラはブタの貯金箱を引っ込めようとしない。
「それじゃあ」
光輝はそう言って手を伸ばす。
それを受け取るかと思いきや、そのまま押し戻した。
「そんな大事なものなら受け取れないな。それに、依頼を受けた時に報酬の話ならしてないぞ?」
「でも、依頼を達成したら報酬を渡さなきゃ……」
「受ける時に報酬を提示してたらそうだろうな。でも今回は何も言ってないぞ?だから払う必要もないんだ」
「でも……」
「いいから早く閉まっとけって。今回は俺のボランティアってことだ」
まだどうするべきか迷っているようなサラに光輝は笑いかけた。
「お兄ちゃん、本当にありがとう!」
サラは満面の笑みを返してくれた。
「本当にいいの? 私から報酬を払うわよ?」
「いいってことよ、気にすんな。お金に困ってるわけじゃないし」
光輝の所持金はカンストしているのだ。今更貰っても貰わなくても関係ないのだ。申し訳なさそうにしているサクラにそう言葉を返した。
「……それなら、今日は私達が御馳走を用意するから食べて行ってよ!」
「まあ、そういうことなら御馳走になろうかな」
ゲームの中では特に大したご飯を食べてきていないため美味しいご飯が分からない光輝にとって有り難い言葉だったのでお言葉に甘えることにした。
「私頑張るから楽しみにしててね!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
こうして夜ご飯を頂くことになるのだった。
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