7 上機嫌でウェールの街に
「ふんふふんふふーん♪」
光輝は鼻歌を歌いながら上機嫌で街へ続く道をのんびりと歩いていた。
普通ならば1人で戻ったサクラを追いかけろ! となるところなのだが、魔法の地図には名前と顔をイメージするとその人物が今どこにいるのかが分かるという能力もあるのだ。
それを使ってサクラが既に街に到着していることを確認している光輝は行きとは違いゆっくりと歩いて街へと戻っているというわけだ。
こうしてサラからの依頼も達成した上で、ゲーム内でドロップ確率が0.0001%だったアスモデウスのレアドロップまで手に入れているのだ。鼻歌を歌うほど上機嫌になっても当然である。
そんなこんなで気分良く歩いていると街が見えてきたのだが、どこか様子がおかしかった。
「なんだあれ?」
門の前に約40人程の武装した冒険者であろう人達が集まっていた。そしてその先頭にいる女性がその冒険者達を鼓舞するように声を張り上げているのが離れた所からでも確認出来た。
そしてその姿は見覚えのあるものだったのだ。
「あれは…………サクラか! あの野郎、サラのためにさっさと帰ってやれって言ったのにところで何してやがんだ! ったく……」
こうして光輝は速足でその集団へと近づいていく。サクラの後ろから近づいているため本人は演説に夢中になって気付いていないようだが、冒険者からすればよく分からない人が近づいて来ているのだ、もちろん光輝の方に視線が集まってしまう。
「ちょっと! 何をしているんですか、そんなことでは生き残れませんよ!」
こうして冒険者達に怒り始めるサクラの背に向かって、
「やかましい! 何をしているんですか、はこっちのセリフだバカタレ!」
光輝は後ろから腹の底からの大きい声を浴びせ、そのまま頭を勢いよく叩く。
鈍い音が鳴り響いたと思うとサクラは痛みに悶絶してしゃがみ込み、それを見ていた冒険者達は顔を引きつらせてドン引きしていた。
「ちょっと聞きたいんだが、この集団は何なんだ?」
光輝はドン引きされていることなど無視してその集団の先頭にいた幼さが残る丸顔の少年に尋ねてみる。
「えーっとっすね、サクラさんが『オレンの森にかなり強いモンスターが現れて私を助けるために代わりに戦っている人がいるから助けないと!』と言ってギルドで集められた集団っす」
「なるほど、そのモンスターなら俺が倒しといたから何も問題はないぞ。さあ帰った帰った」
「まさかそんなこと有り得るわけないじゃないですか!」
痛みから帰ってきたサクラはそうやって皆を帰らせようとする光輝を引き留めた。
「なんで有り得ないって言えるんだ?」
「私はこの街唯一のCランク冒険者で、ここには私より強い冒険者はいないんですよ! その私ですら勝てなかったのに、あなたのような初期装備の駆け出し冒険者が勝てるわけないじゃないですか!」
「何が駆け出し冒険者だ、やかましい! 倒したもんは倒したんだ! 証拠なら見せてやるよ!」
そう言って蓮人は越しにあるポーチからアスモデウスの角を取り出した。サクラはそれを奪い取って覗き込んでいる。
「こ、これは確かにあのモンスターの角です……」
「どうだこれで分かっただろう! てことで皆帰った帰った!」
こうして光輝は外に出ていた冒険者を街の中へと戻し、呆然として動かないサクラからアスモデウスの角を取り返す。
「さあ、早く帰るぞ! サラにお前を連れて帰ってきたって報告しに行かないといけないし」
「え、もしかして私を助けるためだけに来てくれてたの?」
「ああ、道で泣きそうになってるサラからお姉ちゃんが帰ってきてないから探してきてくれって依頼を受けてな」
「そうだったんだ……」
サクラはどこか泣きそうな顔をしていた。光輝はそれに気付かないふりをして門の方へと体を向ける。
「さあ、早く戻ってサラに会いに行ってやろうぜ」
「うん!」
こうして2人並んで街の中へと戻るのだった。
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