5 オレンの森
「やっぱりステータスカンストはやばいな、普通なら歩いて一時間かかるところを10分て……」
街を出て爆速で駆け出した光輝は既にオレンの森の目の前へと到着していた。
「さて、サクラお姉ちゃんは昨日帰ってないってことは一日を森の中で過ごしたってことだろ。体力の消耗も激しいはずだ、早く見つけないとな」
気合を入れて森の中へと足を踏み入れる。
中は思っているよりも明るいが木が覆い茂っており視界が悪い。
「おっと……ほい」
茂みから飛び掛かってきたゴブリンに銅の剣を抜いて無造作に振るう。その一刀でゴブリンの体は真っ二つに分かれ光の粒へと変わり空へと消えていく。
「体はゲームよりよく動くけど剣を振る感覚は一緒だな」
もし何かあったとしても対処できるように体の感覚を確かめながら森をさらに奥へ奥へと進んで行く。
それから更に数体のゴブリンと犬が人のような姿をしたコボルトを倒した頃だった。
「これは……」
光輝は目の前に落ちている刃が折れているナイフを拾い上げる。一瞬コボルトの持つナイフのドロップアイテムかと思ったが手に持ってみて分かった。
「これはウェールの街の武器屋で売っているナイフだ。てことはこの辺りにいるのか……?」
その時だった。女の子の悲鳴が聞こえてきたのは。
悲鳴を出した本人がサクラであるかは分からないが、誰かが危険なことには変わりはないのだ、ここで見捨てることなど光輝の選択肢にはない。
悲鳴のした方へとステータスカンストを活かして全力で駆け出していくと、すぐに切り開けた広場のようなところへと辿り着いた。そこでは光輝にとっては見慣れたモンスターと見たことのない少女がいた。
「なんであいつがこんなところに……!」
そう、ゲーム内でレベルアップのために倒し続けていたモンスターのアスモデウスがいたのだ。ゲーム開始すぐの街の隣の森にいるとは信じられず、光輝は驚きのあまり咄嗟に動き出すことが出来なかった。
こうしている間にも状況は悪化しており、少女の持つ剣はモンスターの二又の槍によって弾き飛ばされ、そのまま尻餅をついてしまった。
そして鈍い光を放つ槍が少女の頭上へと掲げられ、少女は諦めたかのように目をつむり逃げようともしない。
「ごめんね、サラ……」
少女の口からそんな呟きが漏れたのを光輝は聞き逃さなかった。
「何してる! さっさと逃げろ!」
蓮人は思わず声を荒げてしまったが、それにはっとした少女は振り下ろされる槍を転がることで避けた。
「よくやった! どっせーーーい!!!!」
光輝は雄たけびを上げながら全力でアスモデウスへと駆けて行き、そのままドロップキックを食らわせてアスモデウスをはるか遠くまでぶっ飛ばす。
その光景を少女は口を開けてポカンと見ている。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
光輝は少女へと手を差し出し体を起こすのを手伝ってやる。
「あんたがサクラか?」
「そうですけど、なんで私の名前を……?」
「あんたの妹のサラからの依頼だ。昨日から帰ってきてないお姉ちゃんを助けてってな。帰ったらお礼言っとけよ?」
「はい……ひとまず今のうちに逃げましょう!」
サクラは光輝の手を取り街の方へ走り出そうとするのだが、光輝は手を離しサクラへと背を向ける。その光輝の視線の先ではアスモデウスが起き上がり、怒り狂った顔で槍を構えてこちらへ向かってきていた。
「早く行け! ここは俺が引き受ける!」
「でも……」
「行けって! サラが家で1人で待ってるんだからさっさと帰ってやれ!」
その光輝の一言にハッとしたサクラは「は、はい!」と言ってそのまま街の方へと走り去っていった。
それを見送った光輝は額から汗を流しながらアスモデウスへと向き合う。
「さて……俺にあいつを倒せるのかな……?」
アスモデウスはゲームクリア後の世界に登場するようになるモンスターで、最高の経験値を持つのだがその分かなりの強さを誇るモンスターでもある。
いくらステータスがカンストとはいえ簡単に倒せるモンスターではないだろう。なにしろ武器は銅の剣、防具は皮の胸当ての初期装備なのだから。
その上、この世界がどんなものかは分かってはいないがゲームでないのは確実で、下手をすると死ぬ可能性もあるのだ。
「まあそんなこと考えたって仕方ないよな、やるだけやってやるぜ!」
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