4 ウェールの街
街の中はちょうどお昼時というのもあり、道にズラッと並んでいる屋台からはいい匂いが漂ってきていた。
「ああ、いい匂いだなぁ……」
そう呟いた瞬間にグーっと光輝のお腹が鳴り出した。
「そういや腹も減ったなぁ。お金もカンストしてるわけだし、ちょっと奮発しちゃうか!」
トレストには空腹ゲージなるものがあり、そのゲージがある一定値を下回ると体力が減っていき、0になるとゲームオーバーだ。
そうならないために何か食べ物を食べるのは必須だったのだが、味を感じることもなく食べるものによってステータスが変わったりということはないので節約のために一番安い黒パンだけを食べていたのだ。
そんなことを思い出しながら、近くから漂う香ばしいタレの匂いがする串焼きを何本か買って噛り付く。
「!! 超うまい!」
あまりのおいしさに落ちそうになるほっぺを押さえる。
「トレスト内のご飯、こんなにうまいんだな。ゲームにも味覚機能があればもっと売れたろうに」
こうして美味しい串焼きに舌鼓をうちながら歩いていたのだが、ふと道路の端で泣きそうになりながら周囲を見回している小さな女の子の姿が目に入った。
普通なら話しかける義理もないのだが、なぜか気になって話しかけてしまった。
「どうしたんだ? 串焼き食うか?」
その少女は差し出された串焼きと光輝の顔を交互に見ながら黙り込む。どうやら話すのか迷っているようだ。
「ほれ、お兄ちゃんに言ってみな?」
光輝はそう言って笑みを浮かべる。その笑みを見て決心したのか、口を開いた。
「お姉ちゃんを、助けて……」
「うん? どういうことだ?」
状況が見えてこないのだが、ひとまず串焼きを手渡しながら事情を尋ねる。少女は串焼きにがっつきながらも話し始めた。
「お姉ちゃんは、夢の花を取りにオレンの森に行ったんだけど、昨日から帰ってきていないの……」
要約すると、現在ウェールの街では特回復薬の材料となる夢の花が不足しているらしい。そのため夢の花の納品依頼が通常よりも高い報酬で出され、それを少女の姉が受けたようなのだが昨日から帰ってきておらず心配だということらしい。
「そうなのか、それは心配だな……」
「……ねえ、お兄ちゃんって冒険者だよね?」
少女は目の端に涙をためながらではあるが、芯のある声で力強く尋ねてきた。
「うん、まあそんなところだよ」
厳密に言えば今の光輝は冒険者ではないのだが、ゲームの中で主人公は始まってすぐに冒険者登録をするのだ。そういう細かいところは置いておいてもいいだろう。
「じゃあ、お姉ちゃんを、助けてください。私からの、依頼、です。お願い、します……」
その少女は光輝にすがりつき、頭を下げる。表情は隠れて見えないが、零れ落ちる液体が地面を濡らしていた。
たかが他人と言えば別に断ることも出来るだろう。しかし、光輝はその少女の涙を見過ごすことが出来なかった。
「分かった。その依頼、俺が引き受けた」
「ほ、本当?」
「ああ、俺に任せとけ! それで君とお姉ちゃんの名前は?」
「私はサラだよ! お姉ちゃんはサクラっていうの! お兄ちゃんは?」
真っ赤にした目で笑いながら元気に答えてくれた。
「俺はテルだ。よろしくな!」
本名は双葉光輝だが、ではこの世界ではステータスに記されてあった通りにテルと名乗ることにした。
「テルお兄ちゃん、お姉ちゃんを、お願いします!」
「おう! じゃあ早速行って来るよ。お姉ちゃんはオレンの森に行ったんだよな?」
「うん!」
「よし、じゃあ行って来るよ。ちゃんとお家でお姉ちゃんが帰って来るのを待ってるんだぞ!」
そう言って光輝は元来た道を駆け出すのだった。
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