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カンスト勇者の無双劇  作者: レイン
2/12

2 トレストの世界へ

「うーん……」


 光輝は背中のデコボコで硬い感触に疑問を感じながら体を起こす。

 そこで目に入ってきた景色は今まで見慣れた部屋とは全く違い、青々と広がる草原だった。


「……どこだここ? 夢なのか? それにしちゃえらくリアルだな」


 青々とした草や花の甘い匂いがそこらを漂っており、ポカポカの太陽が空高く昇っていた。


「何だかわからんが気持ちいいな……」


 光輝は大きく伸びをして深呼吸をする。そのとき、腰に何かがぶら下がっているのに気付いた。それを手に取ってみると、驚くことに銅で出来た剣だった。


「ええええ!!! なんじゃこりゃ!」


 驚いた光輝は体中をペタペタ触り、自分がどんな格好をしているのか確認する。

 端的にいうと、布の服に皮の胸当てを装備し、皮のブーツを履いていた。いかにも駆け出しの冒険者だという感じだ。

 そして、この格好は非常に見覚えのあるものだった。


「これって、トレストの初期装備、だよな……? とうとう夢の世界にまでトレストが出てくるようになったのか……」


 そう呟いて辺りをキョロキョロ見回すのだが特に何も見つからない。


「とりあえずちょっと歩いてみるか!」




 こうして一時間程歩いたところで景色が続くだけで何も見えてこない。


「おいおい、マジで何もないじゃないか……誰でもいいから出てきてくれよ」


 そう呟いた瞬間である。光輝の真横にある茂みがガサガサと揺れたのだ。


「お、おい! 誰かいるのか?」


 一途の望みを掛けて茂みに声を掛けたのだが、現実はそう甘くはない。いや、夢の中ですら甘くなかった。

 吠え声と共にオオカミらしきモンスターが現れたのだ。そのモンスターの赤い目は全て光輝を標的として捕らえており、低くうなっている。


「え、えーっと……失礼しまーーーーす!!!!」


 光輝はモンスターに背を向けて脱兎の如く走り出した。

 もちろん見逃してくれるわけはなく後ろを追いかけてくる。


「ガルルルルルルル!!!」


「なんでいきなりこんなことになるんだよぉ!!!!!」


 後ろを確認する余裕などないままに、とにかく走る走る走る。



 そのままどれくらい走ったのだろうか。後ろからはモンスターの吠え声も聞こえなくなっていた。


「撒いた、のか……?」


 光輝は立ち止まり後ろを振り向いて状況を確認するのだが、後ろに何かついてきている様子はない。


「ふーっ、助かったぁ……」


 普通、オオカミらしきモンスターの速さにただの人間の全速力が適うわけがないのだが、どうやら無事に逃げおおせたようだ。

 光輝は近くにあった大きな木にもたれかかり、座り込む。


「はぁ…………それにしてもなんなんだよここは」


 先程までは草原にいたはずなのだが、今は辺り一帯は木に覆われており、1本の幅広い道がずっと続いている場所にいる。そしてこの光景は光輝にとってよく見覚えのあるものだった。


「……やっぱりトレストだよなぁ。始めの方によく通る道だもん、見間違えるわけねえよ。

 それに、さっき襲ってきたモンスターも絶対ワーウルフだよ。初心者殺しの。

 まさか本当にゲームの中の世界だって言うのか……?」


 光輝の心を不安が覆っていくのだが、それをポジティブな考えで上書きしていく。


「ってまあこんなこと言ったってどうにもならねえ!

 それにワーウルフからも逃げられるくらい敏捷もスタミナも高いんだ! なんとかなるさ!」


 そう声を大にして叫んだ瞬間、前後の茂みがガサガサと一斉に揺れ動いた。

 かと思うと、一気に先程撒いたはずのワーウルフが一斉に現れたのだ。


「嘘だろ、撒いたはずじゃ……ってそうだよな、オオカミのモンスターだから鼻がいいんだよな……」


 鼻をヒクヒク動かして匂いを嗅いでいるワーウルフを見てそう理解する。


「さあ、どうする?」


 合計7匹のワーウルフが光輝を囲っており、背にはもたれかかっていた木があり、逃げ場などない。

 自分がやれるのかという不安はもちろんある。そしてゲームという確信がない以上、最悪死ぬという可能性もある。

 普通の人ならば怯えて行動出来なくなってもおかしくない場面。だがそんな中、光輝は1人で不敵な笑みを浮かべていた。


「やってやるよ!」


 覚悟を決めて銅の剣を腰の鞘から抜き放つ。そして自分から迫り来るモンスターに斬りかかる。


「うおおおおりゃあああ!!!」


 目にも止まらぬ速さで肉薄した光輝はすれ違いざまに剣を横に振る。剣を握る手には確かな感覚が残り、そして先頭にいたモンスターの体を真っ二つに両断することが出来た。


「1匹目! 次!」


 光輝を上から押しつぶそうと飛び掛かってくる他の2匹にもさっきと同じように横振りの一撃を胴体に食らわせ、またも体を真っ二つに両断する。


「3匹! これなら、いける!」


 一度まばたきする間に3体のモンスターを倒すことができたことにより、さっきまでの不安は消え去り、自分はやれるという自信が生まれた。

 しかし、この自信は気の緩みまで生み出してしまう。後ろの死角からモンスターが飛び掛かってきているのに気付かなかったのだ。そのまま発達しているモンスターの前足の爪の一撃が振るわれる。

 体を捻ることで辛うじて直撃は避けることが出来たが右の二の腕に掠ってしまう。しかし痛みはなく問題はない。

 取り落としそうになった剣を握り直し、すぐ横に着地したモンスターの首めがけて剣を振るう。


「4匹!」


 一瞬で4匹を片付けた光輝に残りの3匹は警戒心を強めたのか、光輝の周りをグルグルと唸りながら回っている。


「危なかった……気を引き締めないと、やられる!」


 額から汗を垂らしながら気を引き締める。この間も目はモンスターから逸らさない。


「よし!」


 大きく息を吸い込んで酸素を取り込んでから、いつものように剣を正眼に構えた。そう、いつものゲームでの動きのように。


「うおおおおおおお!!!!!」


 光輝はモンスターに向かって風を切って駆け出した。一瞬で肉薄し剣を横に振るう。

 この一振りでまとめて2匹を真っ二つに両断することに成功し、最後の1匹へと向き直った。


「これで最後だ!」


 大上段に振り上げた剣を勢いよく眉間へと振り下ろすことで寸分の狂い無く切り裂く。

 この瞬間、倒れ伏せている全てのモンスターが光の粒へと変わり空へと浮かんで消えていった。

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