11 冒険者登録
サクラの家のソファに寝転んで一夜を明かした光輝は翌日の朝もおいしい朝食を頂き、食後の一服として淹れたてのコーヒーをブラックで飲んでいた。
飲めるとはいえやはり少し苦く、ほんの少しだけ顔をしかめていた。
「それで、テルはこれからどうするつもりなの?」
「うーん、今日のところはひとまず冒険者ギルドに行って冒険者登録だな。後は武器屋に寄ってこの前に壊れた武器の代わりを買おうかな」
アスモデウスのレアドロップを素材にした剣を作るには他の素材が足りないため、それまでの繋ぎとして店売りの武器を買っておくことにする光輝である。
(お金なら使っても無くなんないくらいあるしな)
「なるほどね、じゃあ私がこの街を案内がてら冒険者ギルドと武器屋へ連れてってあげるわ!」
「それはありがたいけど、サラはどうするんだ?」
サクラの申し出は非常にありがたいのだが半日程度とはいえ、サラのような小さい子を家に1人にするのは申し訳なさが残る。
「私はこれから学校があるから大丈夫だよー、2人で行ってきて! お土産よろしくね!」
「そうなんだな、じゃあ頼めるか?」
「ええ、もちろん!」
こうしてサラを2人で見送ったあと、早速出発するのだった。
冒険者ギルドへと繋がる大通りでは朝市と言うべきものなのだろうか、たくさんの露店が並んでおり客を引く大きな声が飛び交っている。
「おう、そこの兄ちゃん! うちの店の防具はどうだい!今かなり質のいい鎧が手に入ってるんだぜ!」
筋骨隆々で上裸の男が光輝に目をつけたのか大きな声をかけてくる。
防具を売るのに上裸でいいのか? と思わないでもないが口には出さない。
そんなこんなで立ち止まろうとする光輝をサクラは腕を引っ張って先へ進んでいく。
「この通りはずっとこんなんだから、特に朝と夕方はね。だからスルーして大丈夫よ。
本当に気になったものがある時だけ止まって話を聞くのをオススメするわ。そうでもしないとこの通りを渡り終えることなんて出来ないから」
「なるほど、肝に銘じておくよ」
思わず立ち止まりそうになった光輝はその助言をしっかりと受け入れる。
(ゲームでも確かにこの通りでは常に露店が並んでたなぁ。さっきのムキムキのおっさんと反対側にある店のスラッとしたおっさんが実は兄弟で、しかも同じ防具を仕入れてるからそれを使って値切れるんだったよなぁ。今度やってみよう)
「まあ今は用がないから早く冒険者ギルドへ向かいましょう!」
「そうだな」
2人はかけられる声全てに反応することなく大通りを進んでいく。
ちなみに露店の終わりあったスラっとしたおっさんにも話にも話しかけられたがきちんと無視したのだった。
大通りを抜ければすぐ目の前にギルドがあった。
威厳に溢れる建物で、冒険者以外にはなんとも近付きがたい雰囲気がある。
サクラがおらず1人で来ていたら中へ入るのにかなりの決心をしなければならないところだっただろう。
「さ、着いたね、中へ入ってちゃっちゃと登録しちゃいましょ!」
「あ、ちょっと!」
何も気にせず中へ入っていくサクラの後ろに続き、少し緊張しながらも後ろに続いて中へ入る。
「おおお! すげえな!」
豪華なシャンデリアに近しいライトが中を明るく照らしており、壁に飾られている絵もどこか高級感を放っていた。
また、何組かの冒険者パーティーがおり、依頼板に貼られている依頼を吟味しているところだった。
光輝がそんな風に辺りを見回していると少し離れた所から声が掛けられた。
「サクラさーん! こちらですよ!」
「ウルさん! ほら早く行くよ!」
サクラはその声に元気よく返事し、キョロキョロしている光輝の腕を引っ張ってそちらへ歩いて行く。
「今日も何か依頼を受けに来たんですか? 昨日あんなことがあったっていうのに……ってそちらの方は?」
「ううん、今日は依頼を受けに来たんじゃなくてこの人の用事に付き合ってるんだ」
「俺はテルというんだ、よろしくな」
テルはサクラに促されるままに名乗る。
「あ、昨日言ってた人ですか。私はウルっていいます、よろしくお願いしますね」
ウルは光輝を値踏みするように観察してきたのだが、ふっと短く息を吐いてから口を開いた。
「ギルドの中でもサクラさんより強いってどんな人なんだろうって話になってたんですけど、案外普通の人って感じですね」
初対面のくせになんとも失礼だとも思われるが寛大な心でそれを横に置いて本題へ入る。
「それで、今日は冒険者登録に来たんだけど、頼めるか?」
「えええええ!? テルさんってまだ冒険者じゃなかったんですか……? それでもサクラさんより強いって……」
ウルの顔が驚きで固まっていた。
「まあ色々あるんだよ。それで頼めるのか?」
「……はっ、大丈夫ですよ。このギルドカードに名前を書き、この四角の中に親指を押し当ててください」
すぐに我に変えてきたウルはすぐに仕事モードへと切り替わり、テキパキと冒険者登録に必要な作業をこなしていくのだった。
「これでいいのか?」
光輝は言われた通りにしたカードを返すと、ウルはそのカードにピペットをに入った透明な液体を四角の枠の中に一滴垂らした。
その瞬間、ギルドカードが薄く光った。
「これで登録完了ですよ。表面には名前と冒険者ランクが、裏面には登録者にしか見えないようにジョブとレベルとステータスが書かれているのでちゃんと確認しておいてくださいね」
(そうか、NPCはステータスを自分で確認出来ないからギルドカードで見れるようになってんだな)
そんなことを思いながら確認してみるのだが、
「はあ!?」
光輝はあまりのおかしさに声を上げてしまった。
裏にはしっかりと勇者レベル99、全てのステータスが999と記されており正しいのだが、問題は表側だった。
「……なんでか、俺の冒険者ランクがSなんだけど」
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