10 サクラ家にお泊り
「ふーっ、食った食ったー」
光輝はポッコリと出たお腹を擦りながら背もたれにもたれかかっている。
「余るかなと思って作ったんだけど、まさか全て食べ切るとはびっくりしたわよ」
皿洗いなどの片付けを終えたサクラは2人分のコーヒーを入れて光輝の前に椅子に座る。
サラはもう疲れたのかソファで寝転んで眠っていた。
「いやー、あんなうまい飯は初めてだったからな。ついつい全部食べちまった」
「気にしないでいいのよ、あんなに美味しい美味しいって言って食べてくれたら嬉しいしね。サラもとっても喜んでたもの」
「そう言ってくれるとありがたいな。んじゃコーヒーも頂くよ」
そしてコーヒーを1口飲む。
女の子の前であることにカッコつけて今まで苦くて飲めたことの無いブラックで挑戦してみる。
口に入れた瞬間、豆の香りが口と鼻を満たしていく。その後に心地よい苦味とコクが感じられた。
「うん、うまいな」
「豆を買ってきてちゃんと挽いてるからね、いい香りがするし苦味も少なくなってるの」
「通りで飲みやすいわけだ」
「気に入ってもらえたなら良かったわ」
これならブラックでも美味しく飲めると密かに胸を撫で下ろしつつサクラとの談笑を始める。
「そういえばまだ自己紹介してなかったわよね」
「ん、まあそういやそうだな」
「じゃあ私からね。改めまして、私はCランク冒険者のサクラ。一応ジョブは上級職の魔法戦士よ、レベルはまだまだ低いけどね」
サクラが上級職であったことに驚きつつも自分の自己紹介を簡潔に済ませる。
「俺はテルだ、以上」
「……ちょっと短すぎないかしら?」
サクラは少し呆れながらそう言ってくるのだが、
(そんな事言われてもなぁ。ここは俺がやってたゲームの世界と全く同じで、俺は別の世界からやって来て目が覚めたら居ました、なんて言えるわけねえよ……)
そんな光輝の様子を感じ取ったのかサクラは深くは聞いてこない。
「はぁ……まあいいわ。それにしても何ランク冒険者かとかくらいは教えてくれても良くないかしら? きっとBかAなんだろうと思うけどさ」
ここで光輝はなんと答えるべきか迷ってしまう。まだ冒険者ではないと答えると色々怪しまれる可能性もあるが、ここで冒険者ランクを偽って話をしたところですぐにバレてしまうだろう。
正直に話すことにする。
「んー、一応俺まだ冒険者じゃないからランクとかはないんだよな。冒険者登録しに行こうとしてるときにサラに会ってサクラを助けに行くことになったし」
「はあああああ!?」
サクラはとんでもない勢いで立ち上がり、机越しではあるが光輝へと迫りよる。
「ぼ、冒険者でもないのにあんな訳の分からないほど強いモンスターと戦って勝ったの……?」
「うん、まあそういうことだな」
「ちょ、ちょっと待ってよ、私これでも一応Cランク冒険者で上級職なのよ? それでも歯が立たなかったのに、冒険者でもないテルが勝てるなんて……あなたのジョブは何なの?」
最上級職の勇者です! と言いたくなってしまうが、トレストの世界では勇者になれるのは主人公のみだったため、他に勇者が存在している可能性は低いため簡単にばらすことも出来ない。
「んー、内緒だな」
「それは残念ね……でも嫌がる相手にジョブとかステータスを聞くのはマナー違反だしやめとくわ」
かなり残念そうではあるがそこはしっかりと引き下がってくれたようだ。
「あ、というかもう外真っ暗じゃないか今日の宿もまだ取ってないのに」
光輝が何気なく外へ目をやるともう完全に日が暮れていたのだ。
「まだ宿取ってなかったんだ、それなら今日はうちに泊まってきなよ」
「え、いいのか?」
「ええ。もちろんイタズラはしちゃダメよ?」
サクラは冗談交じりに体を隠すように抱え込んだ。光輝はそれに目を向けないようにしながら即答する。
「ああ、それは大丈夫だよ」
「うぐ……そんなに即答されるとそれはそれで傷つくわね……」
そんなこんなでその夜はサクラの家に泊めてもらうのだった。
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