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カンスト勇者の無双劇  作者: レイン
1/12

1 いざ勇者へ

 雲一つない青空の下、黒目黒髪の剣を正眼に構えた少年が1人いた。

 その対面にいるのは少年よりも二回り以上大きく二又の槍を構えている、全身真っ赤な牛と人が混じったようなモンスターである「アスモデウス」が2体だ。

 様子を見ている少年を置いて、片方のアスモデウスが槍を構えたかと思うと疾風の如く突きを放った。

 少年はそれを横のステップで難なく回避、そしてある言葉を呟く。


 「ファイアソード」


 その瞬間、少年の持つ剣の刀身が真っ赤な炎に覆われた。

 槍を突き出したことでガラ空きになった脇腹めがけ、炎の剣を横に一閃する。

 アスモデウスの体を真っ二つにすることは出来なかったが深い傷を与えることには成功した。そしてアスモデウスの体からは火柱が立ち昇り、体を焼き尽くしていく。

 苦しそうな悲鳴のような声が周囲を覆い尽くしていたのだが、それがふとした瞬間に止み、立ち昇る火柱も何事も無かったかのように消え去った。

 そこには化物の姿はなく、あるのは空に霧散していく光の粒だけだ。


「まずは一体!」


 少年は残る一体へと向き直り、剣を構える。


「グギャァァァァァ」


 残ったアスモデウスは仲間を倒されたことに怒りの咆哮を上げ、離れたところから槍を少年へと突き出す。

 ただ空中で槍を振っただけでは何も出来ないはずなのだが、そんなことはなかった。

 白いエフェクトがアスモデウスを覆ったかと思うと槍先から直径1メートル程の火球が4つ生み出され、少しの時間差をつけて少年へと放たれる。


「おっと!」


 少年は体を捻るだけの最小限の動きだけで避けながら化物へと肉薄する。


「とどめだ! ディヴァインブレイク!」


 今度は刀身から聖なる光が迸り、周囲一帯を覆い尽くした。そして大上段に構えられたその剣が眉間に寸分の狂い無く振り下ろされる。



――――ドオオオオオオン



 凄まじい轟音がアスモデウスの断末魔の叫びをかき消した。

 名前の通り神の一撃にも等しい攻撃は一瞬で全てのヒットポイントを削り取り、その体を光の粒へと変換させる。それらは空へと立ち昇り、消えていくのだった。


 



「ふーっ……」


 少年は剣をパチンという音と共に鞘に直した。こうして周囲はアスモデウスが現れる前と同じ状況に戻ったかと思いきや、



――――パンパカパンパーン



 脳内にオーケストラ音楽のような音が流れた。


(レベルアップしました。これでバトルマスターの職業レベル99です。

 また、全ての職業レベルが99になったことを確認しました。これにより、最上級職である勇者が解禁されました)


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 頭に流れた無機質な声を聞いた少年は喜びを叫び、辺りを飛び跳ねる。


「これで俺も、最強の勇者の仲間入りだぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 早速勇者へと転職するため、街へ戻る呪文を唱えようとしたときである。

 今までは晴天の下にある草原にいたはずなのだがいきなり真っ暗で何もない空間に切り替わった。


「おい! なんだよこれ!」


(システムエラーが発生しました。ゲームを強制終了します)


「はあーーーーーーーーー!?」


 少年の絶叫が真っ暗な空間に響く中、強制的に意識を現実へと引き戻されるのだった。









「いきなりなんだってんだよ……」


 現実の世界へと帰ってきた少年は頭に付いているヘッド型ダイブギアを乱暴に脱ぎ捨て、溜息をついた。

 彼の名前は双葉光輝。普通の人よりもちょっとばかりゲームが得意なだけの平凡な大学生だ。遊んでいたゲームはトレジャーストーリーという自分がゲームの主人公となって世界に散らばる秘宝を5つ集めて願いを叶えてもらう、というストーリーの1人用のRPGゲームだ。通称トレストと呼ばれ、子供から大人まで大人気……とまではいかなくてもそこそこ人気なのだ。

 光輝は大のトレスト好きであり、メインシナリオはクリアしているのは当然のこと、1000時間は確実にかかるのではないか、と言われている職業の全解放に取り組んでいる最中だったのだ。


「あんなに苦労してやっと勇者を解放出来たのに……これで最後だったのに……」


 勇者の解放条件とは下級職7つと上級職5つ全てのレベル99への到達である。そして勇者をレベル99にすれば光輝の長年の悲願が叶うところだったのだ。

 しかし、現実は無常だ。最後にセーブしたのがいつなのか思い出せない今の状況に溜息をつきながら光輝はベッドから体を起こし、消えている電気のスイッチを押す。


「あれ? なんでつかないんだ?」


 そして大雨の振る外を眺めたとき、空がピカンと光ったと思うと



――――ドオオオオオオオオオオオオン



 轟音と共に雷が落ちた。


「雷が落ちたせいで停電したのか。おのれ、雷め……!」


 忌々しげな視線を真っ暗な空に送るが、悲しくなってもう一度大きな溜息をついた。

 最低にまで落ち込んだ気分を忘れるため、光輝はベッドへ潜り込み夢の世界へと逃げこむのだった。

読んで頂きありがとうございます!

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