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独白
暗闇の中。
微かに差し込む光の先から聞こえたのは、あの人の声だった。
あの人は幸せを求めていた。
人並みでいいから、小さな幸せを。
大切な人と笑い合える、幸せな日常を。
だけど、その幸せが手に入らないことをあの人は感じていた。
今の自分に、幸せはこないことを。
自分の境遇を、不幸を、今を、嘆いていた。
そして同時に、願ってもいた。
誰でもいいから、自分を助けてくれと。
どんな手段を使ってもいいから、自分を救いだしてくれと。
強く、強く、願っていた。
聞こえる。あの人の切なる願いが。
感じる。あの人の幸せを求める想いが。
そして悟る。あの人の存在が、すぐ側にあることを。
だから……《私》は生まれる。
あの人はきっと、知らない。
――《私》が生まれたことを。
あの人はきっと、理解出来ない。
――《私》が生まれた意味を。
そして、あの人は受け入れられない。
――まさかこんな形で、自分が望む幸せを手に入れることになるなんて。
今のあの人は……まだ、知らない。