✅ 野原 1 / 野兎に追われて…
「 一日目 」の始まりです。
旅の途中────。
“ 偉大なる吟遊大詩人 ” ことセロフィート・シンミンは、≪ 都 ≫で雇った守護衛士の “ 誰がどう見ても少年に見える青年 ” のマオ・ユーグナルを、お供にして旅を続けていた。
旅の道中、そこそこ見晴らしの良い野原を、他愛のない会話をしながら、のんびり歩いて移動していたセロフィートとマオは、突如、草影の中から飛び出て来た数十匹の野生の野兎の群れに襲われた。
語弊があった為、訂正しよう。
凶暴化した野生の野兎の群れに襲われ、追い掛け回され、大変な思いをしたのは、誰でもない守護衛士のマオ・ユーグナル、1人だった。
“ 何故か ” は不明だが、セロフィートは野兎の群れに襲われなかった。
セロフィート “ だけ ” を上手に避けた野兎の群れは、マオ・ユーグナ “ だけ ” に狙いを定めて、しつこく追い回したのだ。
野兎が避けるセロフィートに何とか助けてもらい、其の場は収まったものの、散り散りとなった野兎達は、獲物を求めて、ひっそりとマオを狙っていた。
上手く隠れてしまい、何処に身を潜めているのか分からない数十匹の野兎から、マオは自身を守る為に、野兎が避けて近付かないセロフィートの後ろへ、サッと素早く移動した。
ピタリと後ろに抱き付き、セロフィートが羽織っている真っ白いコートを両手で掴んだ状態で、マオは注意深く周辺を慎重に、念入りに見回していた。
セロフィート
「 マオ……。
離れてください。
動き難いです… 」
マオ
「 我慢しろ!
セロは、オレが『 野兎達に襲われても構わない 』って言うのかよ!! 」
セロフィート
「 そんな事……言ってません。
マオが野兎達と戯れていた様子は、見ていて微笑ましかったです 」
マオ
「 戯れてないだろ!
あれは襲われてたんだよ!
何をどう見たら『 戯れてる様に見える 』ってんだ!! 」
セロフィート
「 野兎を相手にして、追い掛けっこをしていたマオの様子を、遠目から見ていて楽しかったです 」
マオ
「 追い掛けっこなんかしてないっ!!
追い掛け回されてたんだよ!!
オレは野兎の餌になりかけたんだぞ!!
微笑ましくもないし、楽しくもなかった!!
オレは──、命懸けだった!!
オレ、だ・け・が・な!! 」
セロフィート
「 マオ……。
どうか其以上……怒らないでください。
可愛いです(////)」
マオ
「 何が『 可愛いです(////) 』だよ!!
気持ち悪い事、言うな!
オレは男なんだぞ!
『 可愛い 』なんて言うなよ。
毎回、毎回~~~。
同じ事言わせんな!! 」
セロフィート
「 ワタシは素直な気持ちを言っただけです 」
マオ
「 〜〜〜〜〜〜(////)
もういいから、少し黙ってろ!! 」
セロフィート
「 はいはい 」
“ ぷんすか! ” と怒るマオの様子を見ながら、セロフィートはクスクスと静かに笑う。
丁度良い位置にあるマオの頭の上へ、右手の掌を軽く載せたセロフィートは、微笑みながらマオの頭を優しく撫でた。
マオ
「 ちょっ、馬鹿!
頭を撫でるなーーーー!! 」
セロフィート
「 つい……。
──テヘ♪ 」
マオ
「 『 つい 』じゃ、ないだろ!
男が『 テヘ♪ 』なんて言うな!! 」
セロフィート
「 マオの怒りん坊さん♪ 」
クスクスと静かに笑いながら楽しそうに言うと、セロフィートは自分の顔をマオへ近付けた。
マオ
「 ──んっ?
んん──?
んーーーーんぅん……?! 」
マオの小煩い唇は、セロフィートの人形にしては柔らかい唇に塞がれた。
マオは突然の出来事に思考が回らない。
自分に今、何が起こったのか──。
自分が今、何をされているのか──。
マオには全く理解の出来ない状態だった。
自分の口が、セロフィートの唇に “ 塞がれている ” と理解が出来たのは、セロフィートの唇が離れてからだ。
空気を取り入れる事が出来たマオの口は「 ぷは! 」という音を出した。
漸くセロフィートの唇から解放されたマオは、口から息を吸ったり、吐いたりを繰り返した。
呼吸が出来てから数秒後、マオは再び小さな口を動かした。
マオ
「 ──なっ何するんだよっ!?
いきなり…(////)
どういうつもりだよ!! 」
セロフィート
「 マオの血圧を下げようと思って……。
下がりました? 」
マオ
「 血圧だぁ?!
下がるかよ!
逆に上がっちゃったよ!!
いきなりするなよ!
する前に一言言えよな(////)」
マオの口調は怒ってはいるものの、セロフィートにされた事に関して、マオは満更でもない様子である。
セロフィート
「 言ったら逃げるでしょう? 」
マオ
「 悪いかよ!
頼むからオレに逃げる猶予をくれよ… 」
セロフィート
「 嫌で〜〜〜〜す。
面白くないですし 」
マオ
「 面白がるな!
オレで遊ぶなーーーー!! 」
セロフィート
「 嬉しいくせに♪
マオの照れ屋さん☆ 」
マオ
「 照れてないからっ(////)
嬉しくないし!
喜んでもないっ(////)」
セロフィート
「 はいはい。
そういう事にしときます。
ふふふ♪ 」
マオ
「 止めて……本当に!
オレ…道を踏み外ずしたくないんだよ… 」
セロフィート
「 はて?
其はオカシイです。
マオは、もう既に、十分過ぎる程、道を踏み外ずしてます 」
マオ
「 はぁぁぁぁあん?!
どう言う意味だよ、其は!!
オレの何処が『 道を踏み外ずしてる 』って言うんだよ!
言ってみろよ!! 」
セロフィート
「 ははぁ……。
“ 自覚が無い ” と言う訳ですか。
良い機会です。
教えましょう 」
マオ
「 何で急に偉そうになるんだよ… 」
セロフィート
「 マオは何時もワタシの舌に、舌を絡めて来ます。
唇が触れるだけでは物足りないのでしょう?
ワタシが口を離そうとすると、ワタシの舌に吸い付いて来ますし…。
マオの欲しがりさん♪ 」
マオ
「 嘘言うな〜〜〜〜!!
オレは “ そんな事 ” してない〜〜〜〜っ!! 」
セロフィート
「 してま~~~~す 」
マオ
「 してないよっ!!
男が男に “ 舌ちゅうちゅう ” なんて事したら、気持ち悪いだろ!! 」
セロフィート
「 ワタシ…嘘は言いません。
ワタシはマオの被害者ですよ? 」
マオ
「 何が『 ですよ? 』だっ!!
誰が、どう見たってな~~~、加害者は明らかにセロだからっ!! 」
セロフィート
「 言い掛かりです。
ワタシは人畜無害な吟遊大詩人です。
何時…マオに襲われやしないかと──、不安です 」
マオ
「 何時、オレがセロを襲ったよ!! 」