物忌み
朔が目覚めたのは、社で気を失ってから、およそ五日後だった。
起きた時、そこがもう月影神社ではなく、新たに初斎院と定められた雅楽寮と知った時は、少なからず残念に思ったが、それよりもまず、真雪のことが頭にひらめいた。
——あの人は、果たして無事でいるんだろうか。
それについて考えると、胸の奥が張り裂けそうだった。
あの時、もし真雪に腕をつかまれなかったら、自分はもう戻らなかっただろう。
それが分かるだけに、朔の目覚めを知った小萩が泣きくずれた時は、帰ってこられてよかった、と思った。
置いていかれる辛さは知っていたはずなのに、同じことをしなくてよかった、と。
もともと物忌みの途中ということもあって、一部の女房以外は朔が外出していたことも知らない有様なので、不審に思う者は少なかった。
さらに、小萩の言葉を裏付けるように、社へ行ったあの夜、梧桐の宰相——つまり大炊君が、朔を牛車で連れ帰ったというのだ。
それを聞くと、朔は背筋が冷たくなる気がした。
あんなに禁じられていたことを自ら破って、どんなに情けなく思われているか考えると、もう居たたまれなさでいっぱいだった。
思わぬことから斎宮と定められ、ただでさえ異性と会うことは絶対に犯してはいけない禁忌なのだ。
そう思うと、目の前が暗くなってゆく心地がしたが、不思議と悔いはなかった。
むしろあんな風に連れだしてくれた真雪に、お礼も言っていないことが歯がゆかった。
安否を尋ねたくても、それについて口にすることもできない。
小萩の方も同じ気持ちらしく、真雪のことには一切触れられないまま、ただやみくもに月日は過ぎていった。




