目覚め
次に目覚めた時、
真雪は見慣れた自邸の部屋で横になっていた。
ずいぶん長く眠っていたような気がする。
頭のなかは、あの時の霞を呑んだようにぼうっとして、体を起こそうにも動かせない。
——まさか、あれは夢だったとでもいうのか。
そんなはずはない、と打ち消したところで、真雪の目覚めを知った家人が、大慌てで医者を呼び寄せたり、白湯を持って来させたりと忙しく騒ぎだした。
そのさなかにも、思うように体が動かないため、少なからず真雪は動揺した。
そのうち邦光も枕元にやってきて、——よほど心配していたのだろう。
誰もまわりにいなくなってから、時折涙ぐみつつ、事の顛末を真雪に話してくれた。
「佐さまは、ずっと昏睡状態に陥っていたのです。本当に、もう目覚めることはないのかと思いました」
「ずっとって、どれくらいだ」
真雪は苦労しつつ、なんとか半身を起こし、白湯を少しだけ飲む。
まだ体の節々が痛むようだったが、温かさが喉をすべってゆくと、少し気分がましになる気がした。
「今日で七日めです。本当に、どうなることかと思いました」
「七日も眠っていたのか」
真雪はおどろいた。
そんなに過ぎているとは思わなかったのだ。
邦光があきらめそうになったのも無理はない。
「姫君たちは、どうされたんだ」
邦光は少し言い淀んだが、声をおさえて言った。
「それが……宰相の君という方がいらっしゃって、その方が姫君を連れて帰られました。詳しい様子は分かりませんが、姫君も気を失われていたように思います。
佐さまも昏倒している状態だったため、その方が来られたことは、むしろ幸いでした」
——梧桐の宰相が。
それが主上の耳に入っているのなら、俺は何か罰を受けるのだろう。
罰くらいで済めば、いい方だ。
そして朔姫と直で会うことは、もう二度と許されないだろう。
——そう思うと、胸の奥がきしむように痛んだ。
なんとかして、朔姫の無事を確かめたいと思うものの、そのすべはもう残されていないのだ。
「苦労かけたな、邦光」
まだ目を赤くしている彼をねぎらうような気持ちで、真雪は言った。
朔姫に続く望みは絶たれてしまったが、なんとかこうして帰ってこれたのだ。
それだけでも良しとしなければいけないのだろう。




