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朔姫  作者: 星 雪花
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終焉の光


「朔姫が望むなら、もとの場所に戻ることもできる。そうしなければ、このまま母親と同じ場所に行くことになるだろう。どちらがいいか、君が選ぶんだ」



朔は、思いがけない問いに困惑した。

ずっと、同じ場所に行きたいと思っていた。

母さまに、ひと目会えたらどんなにいいだろう。


そう願った月日を思いやって、いつのまにか涙がこぼれ落ちる。


玉かずらを手渡されたあの日、

朔は母君を助けるつもりだった。


それがかなわないなら、同じ黄泉よみ(ふち)へ行きたいと思っていた。


膝を抱えたまま、なすすべのない現実に打ちひしがれていた時——『彼』が現れたのだ。


会えるはずのない場所で。


じっとこちらを真摯に見つめていた。



——そうか。あの真雪(さねゆき)という人は、あの日私を見つけた人だったんだ。



そう分かると、胸のつかえが下りるような気がした。

ずっと、どこで会ったのか気になっていたのだ。



「心は決まったかな」



白い蛇が問いかける声がする。


朔が、思わず声につられて歩み寄る——と、いきなり強い力で腕をつかまれた。




「本当に、行くのか」



あまりのことに、

朔は一瞬声を失った。

まさかここで、また会うとは思わなかったのだ。



その人は、焦燥と怒りをないまぜにしたような顔で、朔の腕をぐっと離さなかった。



——そう。この人は、あの日もこうやって現れた。私が先に行くのを許さない強さで。



朔が何も言わずに呆然としていると、

その人——真雪は、顔を歪ませたまま、断固とした口調で言い放った。



「どうしても行くなら、俺も一緒に行く。ひとりでは行かせない。そうさせないと、もう誓ったんだ」




苦しげな声だった。



——この人に、どうして逆らえるだろう。



つかまれた手は、脈打って温かかった。


一度その体温を知ってしまうと、拒み通すことはできなかった。

むしろ血の通わない場所に(おもむ)くことの不自然さを、改めて思い知らされるような気がした。



「よく、ここまでたどり着けたね」



それは真雪にむけた言葉だった。

真雪は言った。



「遠くの方で、光が見えたんだ。前に見たのと同じ光だった」



すると、再び白い蛇の答える声がした。



「どうやら、朔姫は連れて行けないようだ。朔姫だけならまだしも、この男は呑み込めそうにない」



どこか、あきらめるような口調だった。

それを機に真雪は、朔を引き寄せた。


光が強くなる。


何もかも白く塗りつぶされていくさなか、

朔は真雪にしっかり抱きとめられていた。


朔は体が浮上するのを感じ——


そしてついには何も分からなくなった。





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