照臣
趣向を凝らした風情の坪庭に、やわらかな月の光が降りそそいでいる。
仏頂面を崩さない真雪とは対照的に、照臣は始終相好を崩していた。
その上機嫌が、真雪の渋面をますます悪化させるということに、照臣が気づいていないはずもない。
真雪は何度目かのため息をついたが、照臣は一向に気にする様子もなかった。
「それで、俺はどこに行けばいいんだ。大体の目星はついているんだろう?」
吐き捨てるような語勢で口火を切るも、照臣には響かないようだった。
若干の沈黙が流れたのちに、照臣はまったく悪びれずに言った。
「目星がついている、というのは嘘言だ」
真雪は、一瞬耳を疑った。
「なんだと?」
照臣は居直った。
「そんなに簡単に尻尾をつかめるのなら、例の姫君はとうに見つかっている」
真雪は絶句したのち、呆れ顔になった。
「話にならん。じゃあ探しようがないじゃないか」
照臣は、口元をわずかに持ち上げた。
「探しようがないわけでもない。月影神社という場所を知っているか」
真雪がかぶりを振ると、
照臣は、心持ち身を乗りだした。
「実はその場所は、かの更衣ゆかりの場所だ。そこに行けば、何か手がかりが見つかるかもしれん」
「朱雀帝の寵愛を受けたという更衣か」
照臣は頷いた。
「その神社に御霊代として祀られていたのが、真珠を連ねた玉かずらだそうだ。それにちなんで、姫君の母は、当時『白珠の更衣』と呼ばれたとか」
「やけに詳しいな」
真雪がうっかり感心した声で言うと、照臣はまんざらでもない様子だった。
「ここ数日、朝霧の女房のもとに通いつめたからな。その更衣の世話役をしていたらしい」
その人を実際に目にしたことはないが、
当時の女房なら、既に相当な年になるだろう。
節操なしに見えても、情報を集めるには好都合なのだろう。
真雪には絶対にできないことだが。
「もちろんお前も一緒に行くんだろう」
「まさか。男二人で行けば、確実に怪しまれる。それに俺はどこから見ても宮人にしか見えない。
その点、お前なら少々身をやつせば、行商をする旅人と聞いても疑われないだろう」
「……けなされているようにしか思えないが」
「適材適所の見立てと言ってくれ」
真雪は閉口したが、照臣はただ明るく言い放った。