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朔姫  作者: 星 雪花
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玉かずら


気がつくと、

朔は、白い霧のなかでひとり佇んでいた。


——小萩は。みんなは。



朔は辺りを見回す。

今まで牛車に乗っていたはずなのに、誰の姿も見えない。

霞みがかった空間の拡がりが、どこまでも続いていた。

たったひとりきりなのが分かると、朔は静寂のなかで両手を固く握った。



——私は、こうなることを初めから知っていた。予想通りのことが起きただけだ。



そう思ってはみても、実際に何もない空間に放りだされると、心許なさが胸に湧き起こった。


その気持ちを制して一歩踏み出すと、何もないと思った先——淡く清らかに光るものがある。


その光を見つけて、朔はやるべきことを思いだした。

ただそのために、この地に来なければいけなかったのだ。



「やっと来たね。朔姫」



白い蛇は、嬉しそうにそう語りかけた。


こうやって会うのは、何日ぶりだろう。

朔も、話し相手を見つけた安堵から言った。



「あなたは、この(やしろ)の守り主だったのね。だから私が必要なんでしょう。玉かずらが、封印されているから」


「ご明察の通り。京へ行ってしまった時は、一体どうなるかと思ったけど」



——では、やはりこの場所に来るのは正しかったのだ。



そう思えることが、朔にはとても大切なことだった。


まわりの者がどれだけ反対しても、朔はそれをしなければいけなかったのだ。

たとえ『月読』を率いる大后に背くことになっても。



以前は封印の解き方が分からなかった朔も、今は普通と違う場所に身を置いているためか、おのずとどうすればいいか見えてくるようだった。


朔は目をつむる——と、身のまわりに、白い蛇が発しているのと同じ光が集まるようだった。

それは蝶のように、最初朔のまわりを舞っていたが、そのうち連なって、ひとつの形を成した。


白い珠を、いくつも連ねたような。


玉かずらは、

鮮烈な光彩こうさいを放ちながら、

朔の手元にいきなり現れた。


否、今までもそこに存在していたのに、たった今見えるようになったのかもしれない。


あまりにも自然にそれは現れて、

まるでずっと持っていたように思えるほどだった。


と同時に、

言いようのない懐かしさが、朔の胸を満たした。


——私は、これを前にも見たことがある。

それなのに、忘れていた。

あの時、母さまが、私にのこしてくれた光だったのに。



そこまで考えて、朔は笑いたくなった。

今までも、きっと思いだそうとすれば思いだせたのだ。


その記憶に蓋をしていたのは、他でもない朔自身だった。

ずっと自分を(あざむ)き続けていたのだ。



朔は、輝きを放つ玉かずらを捧げ持つと、

白い蛇にそっとくわえさせた。


ふたつに溶け合った光は四方に伸びて、大きくなってゆく。

そのなかに呑まれつつあると知ったのは、次に呼び掛けられた時だった。




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