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朔姫  作者: 星 雪花
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夜明け前 Ⅱ


空が明るくなる気配を感じとって、朔は物見窓に顔を寄せた。

思いがけない事態になったものの、今この牛車が一歩ずつ月影神社にむかっていると思うと、まるで夢のような気持ちだった。

だが全く心配がないわけではなく、不安が頭をもたげるたび、暗く胸を覆われるような気がした。


そんな様子を察したのだろう。

揺れる牛車のなかで、小萩はつぶやいた。



「大丈夫? 朔」


朔にしてみれば、小萩が機転をきかせてくれなければ、ここに来ることはできなかっただろう。何より小萩がいてくれたから、朔は抜けだすことができたのだ。

朔はうなずいた。


「ありがとう、小萩。ついてきてくれて」


小萩はひとつ、ため息をついてみせた。


「真雪、という方だっけ。あの人が中にいた時は、胸がつぶれるかと思ったわよ。私が用心して、ずっとそばにいなくちゃいけなかったのに。幸い、何もなくてよかったけど」


朔は頰が赤くなる気がして、紛らわすように言葉をにごらせた。


「あの方は、小さい頃の私を夢で見たことがあると言っていた。記憶を取り戻せば、私も、その時のことを思いだせるのかしら」



夢うつつに話す朔が、霞のなかに消えてしまう気がして、小萩は思わず手を握りしめた。


「ねぇ、朔。これだけは約束して。ひとりで遠くに行ってしまわないで。真雪さまに誘われても、決して行ってはだめよ」


「まさか。私が小萩をおいて、どこかへ行くわけなんてないでしょう」



朔はそう言いながら、真実を言い当てられた気がした。

きっと私は、小萩を置いていく。

誰も容易にたどり着けない場所へ。


そうなるのがさだめなのだとしたら、一体どうしてあらがえるだろう。


朔は、白い蛇が二度にわたって告げた言葉を聞いて、何をするために社へむかうのか、すでに分かっていた。


自分は封印された玉かずらを、社に戻さなければいけないのだ。

蛇はその力の返還を求めて、繰り返し朔の前に現れた。


それで自分が失われることになっても、朔はかまわなかった。

ただ、こうまでして心配してくれる小萩のその後のことを思いやると、胸が痛んだ。

この行為が大炊君や、さらには大后をも裏切ることになるのか——と思うと、申し訳ない思いでいっぱいだった。

そして外に連れだしてくれた、真雪という人に対しても。


——でも、私は自分で望んだことを、初めてすることができる。それは母さまが果たせなかったことだから、私がしなければいけない。

母さまは決して、とがめたりしないだろう、



さまざまな胸の思いにかられていると、

揺れがおさまり、牛車が停止した。


朔はもう一度、物見窓を見る。

霧がかかっているのか、辺り一面が白く覆われていた。



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