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朔姫  作者: 星 雪花
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夜明け前


邦光は、真雪の例にない忍び歩きを常々本当にめずらしいことだと思っていたが、突然牛車で出かけると言うので、さらに仰天した。


しかも、今からすぐに行かなければいけない事態だと言う。

そして驚くべきことに、連れて行くのは朝霧の女房ではなく、どこかの姫君だと言うのだから、邦光は俄然、お供する気になった。


もともと馬や牛の世話をしていたこともあって、家畜の扱いには慣れている。

夜道は危ないため、本来はもっと従者を連れて行くべきなのだが、真雪は邦光にできるだけ牛を急がせるように言い、自分は騎乗して後部を守ることにした。


行く手に危害があれば、切り結ぶことができるよう太刀をき、邦光には弓を持たせている。


決して完全な警護とは言えないが、小萩が朔姫を馬に乗せることを嫌がったため、こうするより致し方なかったのだ。

邦光だけを連れて行くことにしたのは、従者を増やすと何かと気づかれるおそれもあるだろうと思ってのことだった。


とはいえ本当に時間のない時は、馬に乗せて駆けようと思っていた。


おそらく夜明けには間に合わないだろう。

そう思って屋敷から出発したが、邦光はさすがに慣れているだけあって、たくみにむちをふるい、牛を急がせた。


時折、邦光に道を指示する他には真雪は後ろにつき、周囲に気を配った。

とは言っても、松明をかかげる者がいないため道は暗く、牛を急がせるにも限度がある。


加えて今日は、新月の夜なのだ。

そんなたよりない道のりであるため、馬で駆けるようにはいかなかった。


それでも、なかなか進まない焦りとは裏腹に、真雪は高揚していた。

たとえ一時でも、朔姫と行動しているという事実が誇らしくさえあった。

しかし一方で、なんとしても無事に最後までお連れしなければという気負いがあり、心の一点は冷静に冷めていた。

あの時、夢に見た少女の面影が、探し求めたすえ、とうとう現実のものとなったのだ。

それを考えると、未だに信じられない思いだった。



「——聞いていいですか」


道を教えるため、馬を寄せた折に、邦光は正面を見たまま真雪に問いかける。


「月影という(やしろ)には、何があるんですか。一体何のために、危険をおかしてまでわざわざ姫君を連れて行くんです」


「話せば長くなる」


真雪はそれで終わらせるのも、邦光に悪いような気がして言葉を続けた。


「正直、何が起きるかは俺も分からないんだ。でも、ただひとつだけ言えるのは、姫君のためなら命をも惜しまない。そういう覚悟でいると言うことだけだ」


少しずつ、東の空が白んでいく気配が感じられた。

社に着くにはもう少しかかるだろう。

真雪はそれきり口をつぐんだまま、自分の発した言葉を胸に刻みつけた。



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