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朔姫  作者: 星 雪花
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真相


朔はむりを承知で言い募った。


「その前に、月影神社に連れていって。母さまが持っていた玉かずらは、もともとそこにあったものなのでしょう」


大炊君は険しい表情になると、さとすように朔に言い聞かせた。



「お気持ちは分かりますが、今は潔斎されるのに集中して下さい。今行ったら、物の怪の力を強めてしまうことになりかねません。母君もそれで命を落とされたのです」



それを聞いた時、

朔は自分のなかにある空虚さをとらえた気がした。

私の心は、その場所につながっている。


そこは死につながる場所だから、その虚無と同じものを私は持っている。

そこに呑み込まれてしまうことを、私は一度もおそれたことはなかった。


(くちなわ)によって、その名もなき場所にむかわせる力を、玉かずらは自然に宿しているのだ。



「最後にひとつだけ教えて。母さまは玉かずらで、何をしたの」


その質問に、

今度は大炊君も偽りのない言葉を言わなければいけないと感じたようだった。


「先の帝——朱雀帝は、もともとお身体が弱かったのですが、白珠の更衣は玉かずらによって、何度もそのやまいを癒したのです。

しかしそれが、お身体を壊される原因にもなってしまいました。白珠の更衣が力を使い果たし、とうとう亡くなると、後を追うように帝も崩御ほうぎょされました」



朔は知らず、胸元を押さえていた。

大炊君は続けた。



「そして更衣が息をひきとる時、そなたに玉かずらが手渡され、それは幻のようにパッと消えてなくなってしまいました。

それを見たのは、側に控えていた私と数人の女房だけです。その瞬間、幼い姫君の体も消えてなくなるように見えました。

数分後には元に戻られましたが、そなたは記憶をなくしていたのです。尋常なこととは思えませんでした。大后さまのご指示もあり、私はその時まわりにいた女房たちを集めて都を出立しました。

最初は記憶が戻られるまでと思っていたのですが、京にいるよりも安全であることなどから、十五の年までという区切りをつけて、お迎えにあがる手はずを整えていたのです」



——十五になると『月読』が迎えに来る。

呪文のように聞かされていた言葉が、また蘇る。


大炊君は息をついて言った。



「そなたの母君の霊威は人づてに伝わり、朱雀帝の弟君である今上帝は、大后さまの手で隠されたことを知りながら、今もなお、玉かずらを受け継いだ姫君を宮中の公達(きんだち)を使って探し求めています。

おそらく玉かずらごと、そなたの身柄を引き取るつもりでしょう」



だんだん、降ろしてある御格子(みこうし)の外が明るくなっていく気配が感じられた。

いつのまにか、朝が近づいているのだ。

思いもよらぬ話の連続に、朔はめまいを覚えた。


朔がぼうっとしているのを見て、大炊君は僅かに微笑んだ。



「本当は徐々にお話するつもりでいたのですが、公務が忙しく、なかなか時間がとれないこともあって、一気にお聞かせしてしまいましたね。

私は参内する身分であるため、会えなくなる時もあると思いますが、その時はアヤメを通じて私に知らせて下さい。何か必要なものも持ってこさせるように手配します」



その言葉ひとつひとつも、次第に遠くなってゆくようだった。


朔が目をつむって倒れ込むところを、大炊君の両腕が支えていた。

大炊君は、気を失ったように眠る朔の髪をそっとかきあげると、手を打ち鳴らし、側仕えに命じていた者を呼んで、御帳台のなかに連れていった。




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