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朔姫  作者: 星 雪花
37/56

推測


朝霧の指摘に、

真雪は——本当にそうかもしれない、と思い知らされるような衝撃をうけた。


斎宮は、伊勢神宮に仕える神聖な姫皇女(ひめみこ)だ。

もしそうだとしたら、宮人と交わることなど絶対にゆるされない。

斎宮は代々、未婚の内親王か女王と決まっているからだ。


もしも初めから「月読」が誰かの命を受けて朔姫を斎宮にしようという心づもりがあるなら、長年御所にいないことは、多くの宮人の目から隠すのに有効だろう。



御所で照臣のような者に目をつけられれば、いくら守りが厳重でも、心がけのない誰かが手引きすることで、簡単に姫君を奪われてしまうからだ。


先の帝だけではなく、主上の意にそむいてまで、姫君を御所から遠く離れた場所に隠せるのだとしたら、相当な立場の人でないとできない。

もしこの話が本当なら、朔姫に会うことすら重い罪になる。



しかし、それが真実だとしても、朔姫に人目会いたいという気持ちは消えなかった。


あの夢を通して、姫君が自分に助けを求めているような、そんな気持ちがずっと離れなかった。


玉かずらの行方などよりも、

実際は朔姫が今、どんな境遇に立たされているのか、同じ目線で感じてみたかった。

真雪は、思いつくままの気持ちを言った。



「それでも、私はなんとかして姫君に会いたいと思い焦がれている。その思いだけでも伝えるすべはないものだろうか」


ふっと漏れでた言葉は、真雪の本心をそのまま表していた。

それが朝霧にも伝わったのだろう。かすかに吐息の混ざる声で言った。



「困った方ですね。どうしてもと言うなら、お手紙くらいはこちらで取次ぎできるかもしれません。

お返事はいただけないかもしれませんが、それでもいいのなら」



それだけでも充分有り難いと、真雪は嬉しくなった。

二人いた侍女のどちらかと、再びまた会えないものだろうかと思いめぐらせながら何気なく真雪は言った。



「こちらに泊まっていた姫君の侍女は、何という方なのですか」


「確か、小萩という方だと思います。なんといっても並々でない姫君の身分ですから、今はたくさんの女房がお世話しているでしょう」



どちらが小萩という人だろうかと思いつつ、真雪はでまかせに言った。



「実は帰りがけに、もうひとつの人影を目にしたのですが、そちらも姫君の侍女のようでした。その方は、一体何という名ですか」



その問いかけに、朝霧は首をかしげた。



「それはおかしいですね。こちらに泊まられたのは、姫君と、小萩という侍女の二人だけです。車副(くるまぞい)に随身もいましたが、そちらは狩衣を召した男の方でしたし」



——そんなはずはない。


真雪は、喉元まで出かかった言葉をなんとか呑み込んだ。

最初の晩に会った侍女と、次の晩に会った侍女は確かに別人で、同じ人ではあり得なかったのだ。

本人も別人だとハッキリ断っていた。



ふいに、

最初の晩に対面した侍女が、夢のなかで見た姫君と重なって見えたことを思いだす。



——まさか。


いくらなんでも、そんなことが現実にあるはずがない。

しかしそういう疑いをもって思い返すと、佇まいや夢のなかで聞いた声音が似ていたように感じられるのだから不思議だった。



——女君の心を動かす歌など書けそうにもないが、古歌そのものならさすがに思いつく。


相手が斎宮になられるのなら尚更。



文机の上、

早速用意された陸奥紙に、真雪は(かり)使(つかい)で知られる歌をしたためた。

書かれた和歌を見て、朝霧は苦笑した。



「この歌は私も好きですが、もっと自分の気持ちを詠まれてもいいのではないですか。せめて何か書き添えて差しあげないと」


それは確かにもっともなことなので、真雪もつられてかすかな笑みを浮かべた。


「たくさん書いても字が下手なので、見苦しくなるようですね。では少しだけ」



そして、静かに筆先を走らせた。



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