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朔姫  作者: 星 雪花
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問いかけ


真雪が歯がゆさにじっと耐えていると、

目の前の少女の、細い声がした。



「なぜ、姫君の歌を詠んだのですか。昔、姫君にお会いになったことが……?」



かき消えそうなほど小さな声を聞いて、

真雪は、少女はそれを知りたかったのだ、と思った。


それをおそらく朔姫も不思議に感じたのだろう。

真雪はその思いに応えたくて、本当のことを話すことにした。



「夢のなかで、姫君に会ったのです。まだ五つくらいの小さな姫君でした」


少女は表を上げ、

言葉の続きを待っているようだった。

真雪は続けて言った。



「姫君は泣いていました。母上のことを救えなかったと言って」



少女は何も言わず、真雪を見返した。

真雪は急に、弁解したくなって早口になった。



「私はその時、何も力になれなかった。その夢を見て、姫君のお役にたてればと、そればかり考えて過ごしていたのです」



これで聞きたいことは何もないだろう。

そんな気がして、真雪は立ちあがった。

この話をこの少女が朔姫に伝えてくれるなら、それでもう充分なような気がした。



真雪か去ろうとする気配を察したのか、少女はやおら呼びとめるように言った。



「他に何か知っていることはありますか。姫君は幼い頃のことを、まったく思いだすことができないのです」



その言葉は、どこか切実に聞こえた。

真雪は一度口を開きかけたが、思い直すと、心に浮かぶまま(いら)えた。



「もし、そなたが私と会うつもりがあるなら、明日、同じ時刻にこの屋敷の前で待っていて下さい。そうしてくれるなら、もっと詳しいことをお話しできるでしょう」



真雪は抑えた声で言い、その場を後にした。

でも少女がそれに応じるとは、あまり思えなかった。


それでも、

約束を交わすことで、姫君と繋がった細い糸が、まだ断ち切れていないような気がした。


朝霧に礼を言い、門まで歩いて行くと、邦光が健気にそこで待っていてくれた。

こんな風に待たせてしまうなら供を頼まなければよかったと真雪は思ったが、邦光は意に介さないようだった。



——朔、というのは新月の意味だったか。



真雪は、姫君のいる屋敷をもう一度振り返り、淡い想いを抱きながら思った。




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