報せ
早めに照臣のもとを辞退して表に出ると、
すでに夕星が西の空に淡く光っている。
物思いをしていて足取りも自然と遅くなったのか、自邸にたどり着くと、
門の前で邦光が、焦れたように待ち構えていた。
真雪を見つけると、
今や遅しと待ちくたびれたように駆け寄ってきて言った。
「以前、歌を送った方から文が届いています。佐さまが全然帰ってこないので、少将さまの家まで届けに行こうかと思ったくらいです」
真雪が歌を送った相手といえば、朝霧しかいない。
そんな急ぎの用でもないだろうと、邦光を見て真雪はあきれたが、邦光は邦光で、朝霧を真雪の想い人と、あらぬ誤解をしたままかもしれない。
真雪がその場で文を広げると、
そこには素っ気なく、しかし急いで書いたのか、少し乱れた文字で、今夜屋敷に来ていただければ、という主旨のことが簡潔に書いてあった。
用件を書いていないところを見ると、邦光の言う通り、もしかしたら急ぎの事が何かあるのかもしれない。
「今夜また出かけようと思うが、供をたのめるか」
いつもはひとりで行くのだが、なんとなく命婦を訪れた時のこともあって、真雪はそう言った。
初めてそう言われたのが嬉しかったのか、邦光は大仰に、ひとつ頷いた。
「もちろん、お供をさせていただきます」




