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朔姫  作者: 星 雪花
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車宿りの相談


篝火(かがりび)が庭先の灯篭にちらちらと燃えているが、幸いなことに衛士の姿はない。


朔は東の中門を抜け、つきあたりの釣り殿まで行くと、何とか足場を見つけて柵を乗り越えた。


こうなると、せっかくの袿の裾が汚れてしまうが、今はそんなことにかまっていられない。

朔はそのまま車宿りへ向かった。


こんな時間に誰もいるはずがない。


そう思って駆けていったため、小屋のなかに動く影を見つけた時、朔はぎくりとして思わず足をとめた。

しかし、相手には気づかれたようだった。

その影は、驚いたような声でこう言った。



「朔? もう来たの?」



朔が大いに安堵したことに、それは小萩だった。

朔はなかに入ると、うずくまっていた小萩に近づいた。



「小萩こそ、いつからここにいたの」


「私、どの車に乗るか知っておきたくて、それで寝ていられなかったの。朔が来てくれてよかった」



それを聞いて、朔は少し胸が痛くなった。

気持ちが揺れかけたが、朔は思いきって切りだした。



「小萩にお願いがあるの。明日、私の代わりに牛車に乗ってくれない」



小萩が目を見開いたように、朔には感じられた。

朔はためらいつつ、言葉を続けた。


「むりなお願いだって分かってる。でも、今はそれで切り抜けるしかないの。

ーー私、月影神社へ自力で行くことにする」



朔は一気に言うと、ようやく自分のしたいことが明確になる気がした。

あの白い蛇の忠告を、今はただ守りたい気持ちだった。

小萩は少し呆然としたようだったが、気をとり直して言った。



「そんなこと言っても、絶対分かっちゃうよ」


「衣は今変えっこすればいい。私の持ってる扇を貸してあげるから、それで顔を隠してなるべく俯いていて。声は出さずに、何か聞かれても答えたりしないで。

もともと私はそんな風だったから、またふさいでるって思われるだけだと思う」


「でも、ばれた時は何て言い訳するの」


「小萩は私に命じられたと言って。それで、もし何か罰を受けそうになったら、こう伝えて。

そんなことをしたら、『私』は永遠に手に入らないって」



そこまで聞いて、小萩はようやく朔が本気だと悟ったようだった。

小萩は、頭のなかをめぐらせた。

そして、朔に向き直って言った。



「朔の代わりはつとめられると思う。でも、朔はそれからどうするの。まさかここからひとりで、その神社を目指すつもりなの。

土地勘もないのに、そんなの絶対だめ。第一、山歩きに慣れていないなら、足にたこができて、すぐ歩けなくなるに決まってる」



小萩に指摘され、朔は何も言い返せなかった。

確かに、改めて言われると、それは蛮勇を通り越して無謀なふるまいだった。

小萩に代わってもらうことしか頭になくて、その先のことは考えていなかったのだ。

小萩は続けて言った。



「それなら、お互いがお互いのふりをして車に乗る方が、ずっと利口だと思うの。どこに行くにしろ、私は朔として車に乗るわけでしょう。

その間に、朔は私のふりをして自由にすればいい。困ったらお互いに相談だってできるし」



そう言われてみると、

朔もその方がいいという気がした。

白い蛇は牛車に乗らない方がいいと言ったが、その先の案内は頼れそうにもない。


小萩が朔の代わりをしてくれるなら、その分相手の目を欺くこともできる。

朔は頷いた。



「じゃあ、お互いが入れ替わって行くことにしよう」



朔がそう決めたのを見て、

小萩は一転、華やいだ声で言った。



「私、一回お姫さまってやってみたかったの」


「そんな風に喜ぶことじゃないよ。窮屈なことばかりで」


「でも、こんな機会滅多にないんだもの。それに、朔の代わりならじっとしていればいいから、簡単でしょう」


そう言われ、朔ははたと気づいたように言った。


「そっか。小萩になる方が大変かも」


小萩は、声をたてないように笑った。


「付き添いとして行くなら、付き添っていれば基本は大丈夫。細かいことは教えてあげるから」






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