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朔姫  作者: 星 雪花
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白い蛇が朔に語ること


朔は、

蛇が口を開いて言葉を発しても、別段驚かなかった。


今にも話しだしそうだ、と思った矢先に、蛇が喋ったからだ。


朔はーーこれは神さまのお使いだ、と思った。

そうでなければ、ただの蛇が喋るはずもない。


蛇は、(さか)しげに頭を上げて言った。



「今日こうやって姿を見せられたのは、月が上弦から下弦に移ったからだ。もっと君が色々自覚してくれれば、すぐにでも会えたのに」



急にそう言われて、朔は何と言えばいいのか分からなくなる。

しかし同時に、この遠慮のない態度をどこかで知っている、という気持ちがあった。

一体どこで、いつ会ったのだろう。

その考えを見透かされたのか、蛇は再び言った。



「子どもの頃に、会ったことがあるよ。でも、突然会えなくなってしまった。君はすべてを忘れてしまったから」



朔はハッとした。

それでは、この蛇の形をした使いは、すべてを知っているのだ。

そう思うと、朔は目の前が急に拓けたような気持ちになって尋ねた。



「教えて。あなたは、一体何を知っているの。どうして私に会いに来てくれたの」



「僕が言えることは、ただひとつ。明日、牛車には乗らない方がいい」



その言葉に、朔は困惑した。



「でも、もう行くことになっているの。小萩も一緒についてきてくれるし……」



「それなら、その子に代わりをさせればいい。これは計略だ。君は、まさに生け捕られようとしている」



朔はもう、二の句が継げなかった。

足元がぐらぐらと揺れる心地がした。

ここにいてもいいと思い定めた気持ちが、どんどん崩れてゆく。



すると、

蛇は徐々に、その体の光を弱めていくようだった。

焦慮にかられて、朔は声を上げた。




「それなら私は、一体どうすればいいの」



蛇は、

赤い舌をのぞかせて、笑ったようだった。




「社に来てごらん。そうすればーー」




ーー“一緒に還れる”



朔には、蛇がそう言ったように聞こえたが、


直後、


蛇は、青白い光を僅かに残して、散るように消えてしまった。


そうなると、今見たものは夢か幻のように、頼りないものに思えた。

だが、蛇の発した言葉を信じるなら、悄然と佇んでいる時間は、もうあまり残されていなかった。


朔は、袿を単衣の上に羽織り直すと、庇の隅にある妻戸をそっと押し開けて、音をたてぬよう簀子縁から透廊(すきろう)を渡っていった。


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