表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノスタルジアの箱  作者: 水菜月
真白き冬にて。
25/27

冬と白い羽


冬は しんとした季節だ。

大きな空に向いた窓から身を乗り出し つめたさを浴びる。


庇の向こう側には

ただ垂れこめた雲が停滞していて 憂鬱になる。


雲が斑に広がる奥に

限りなく広がる青い空を 思い浮かべてみる。


心はいつも 果てに飛ばせばいい。

重さがなくなっていくように願って。

いつしか自分の存在も、こうして消えゆく日が来るのだろう。



少しの間、空を交換してみない?

夏と冬とが 過去に交わした約束事があったなら

守られずに ただ宙に浮いた由無事よしなしごとなのであろう。


どちらが嘘つきなのか。 互いに相手のせいにして。

簡単に口にだしたことを 信じる方がいけないんだ。

春と秋であれは 似たもの同士で

もっと やさしい騙し合いになっただろうに。



ずっと、ずっと、こんな空では かなわないよ。

ああ、もう、助けて。


君の気持ちが うつむいたままになっている。

ね、こっちを向いてごらん。

両手で頬を包んであげる。


君は冬が嫌いなのかい。 ぼくはすきだよ。

一瞬で体に風が張り付いて、身震いするくらいの寒気を感じたら

冬も生きてそこにあるって、眠っていたんじゃないって わかる。


曇った心に 寄り添うように 取り込んでごらん。

春ばかり待ち焦がれていたら 可哀想だよ。


君が ぼくに抱きついてくる。

君は そんな風にしか、冬から逃げられない人。



今朝、白い鳥が 鳥かごの床で 命を落としていたんだ。

白い羽を 両側にいっぱいに広げて 倒れていた。

何かを包み込むのに失敗して、そのまま落ちてしまったように。


悲しいよりも 美しいと想ってしまったぼくは

そこで止まる。

いつしか いつか来る日が、今朝になった。

きっとそうだ。


手にのせても、もう あたたかくない体。

剥製なのかと疑う その硬さは 命のぬけがら。

目は閉じていた。

あの どこを見ていたのかわからない瞳。


どうしよう。庭に埋めたりしたら 旅立てなくなるよね。


白い羽を そっと撫ぜてあげたら

どこか 気持ちよさそうに見えた。

真冬の 真白の空気が この子を連れていってしまうんだ。


君なら 抱き上げて連れて行かなくていい。

その羽を広げて、天使の後をついていけるね。


凍ってしまいそうなあの空に

君のまぶしい姿が 一瞬 きらめいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ