あきられたおもちゃ
わたしは あっという間に あきられてしまった
あなたが捨てた おもちゃなのです。
あなたが向けてくれた想いは、いつのまにか
風船のように 遥か彼方に消えてしまって。
地上でぼんやり見送る私を 振り向きもせず、見えなくなる面影。
確かに、あなたから、恋をしてくれたはずなのにな。
おもちゃなので、遊んでくれなくなったら
哀しく ベッドに抛られて、ほっぽっておかれたまま。
もう そのほほえみは、私を見てはいない。
空虚なまなざしは どこか他所を見つめている。
抱かれたとしても、もう熱くない肌。
こちらを見つめもせずに、指先だけで手繰られる。
耳もとで囁いてくれた 過ぎ行く言葉たち。
きっと、取り戻すなんて、できはしない。
こうして、私は 耐え切れずに行方を 晦ます。
葉の裏に、花の影に、生きた亡霊のように。
たいして遠くには行けなくて。
そんな自分が嫌いで、情けなくて、消してしまいたくて。
あの日、縋るように追いかけた私。
「ずっと すきだよ。この先 ずっと」
何故、そんな約束事が言えたのだろう。
別れを受け入れたのに、余韻のように残したかった、まるで未練。
未来など信じていた訳でもないのに
伝えてしまった言葉に 自分自身が 霞んでいく。
別に守らなくてもいい、宙に浮いたただの口約束。
なのに一年後、あなたから手紙が届く。
なぜ思い出したりしたの。さみしかった?
もう他の存在が、私に行くなと引きとめる。
今頃どうして 私の手を掴もうとするの。もう、遅いよ。
捨てたおもちゃは くすんで涸れてしまった。
もう、誰かを傷つけられないん。引き返せない。
きっと、また同じことを繰り返すだけなのに。
あれから、ずっと、忘れずにいたんだ、あの一言を。
「ずっと すきだよ。この先 ずっと」
繰り返し、聴こえてきた、呪文のように。
恋を失うことは、世界を失うことだ。