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第9話:きりきり鳥

街道に戻ると、再び海とビッグマネーをつかむ旅路の再開となる。


ただ、廃村に立ち寄る前と現在では違いがあった。


きりきり。ちゃっぷん。きりきり。ちゃっぷん。きりきり。ちゃっぷん。


「おい!この荷車、さっきから何か変な音がしてねえか!?」


「このあたりの山にはきりきり鳥という鳥がおってな。きりきりという声で鳴く、と聞いたことがある。おおかた、ゾンビの空耳だろう」


「そ、そうか・・・?」


うまいこと誤魔化されたゾンビおっさん。

頭を左右に捻りながら、再び荷車をひきひき歩きだす。


きりきり。ちゃっぷん。きりきり。ちゃっぷん。きりきり。ちゃっぷん。


「いやいや、絶対おかしいって!空耳じゃねーよ!」


「なんだ、疑い深い奴だのう。けいのそういう部分、これからの人生のためにも直したほうが良いぞ」


「魚はちっと黙ってろ!」


ゾンビおっさんは、荷車を牽く足を止めると、あれほどうるさかった音も止まる。

人っ子一人いない山中に聞こえてくるのは、さわさわと梢を渡る風の音、遠くで鳴き交わす小鳥や虫の音ぐらいのものである。


ゾンビおっさんが、荷車を数歩だけ牽く。


きり。ちゃぷ。


もう数歩だけ牽く。


きり。ちゃぷ。


「やっぱり気のせいじゃねえ!くっそーっ!あの農家の親父、こっちの足元見て傷んだ荷車を売りつけやがったか?車軸でなけりゃいいんだが・・・」


荷車の車軸の修理には精度の高い金属部品が必須で専門の鍛冶職人が必要である。

こんな人里離れた山中で荷車が故障すればうち捨てるより他にない。

あとの荷物は自分で担ぐハメになる。


あんな口達者なサメの入った水樽を何日も担ぐなど、想像するだに頭がおかしくなりそうだ。


「ん?なんだこのボロ布は」


荷車に振り返ったおっさんの視界に水樽の影に隠れるように積まれたボロ布の塊が映った。


「こんなのもの積んだっけか・・・?」


自分の記憶力に微かな疑惑を覚えて中身を確認しようと手をのばすと、ボロ布がスウッと遠ざかる。


「・・・は?」


錯覚ではない。

断じて、加齢ゆえの老眼で距離を見誤って手が空をきったわけではない。

ボロ布の塊が、意志を持って動いたのだ。


「このあたりの山にはボロボロ布という鳥がおってな、その鳥はまるでボロ布のような見た目で・・・」


「そんな訳あるか!このやろう!」


ゾンビおっさんの手が今度こそボロ布を引き剥がすと、小さな垢じみた姿が現れた。


「ガキじゃねえか」


「・・・見つけてしまったか」


「隠してたのか、てめえ」


「乗り込むのを黙認していただけよ。荷車を牽くのはけいであるしな」


泥と垢で縮れた髪の毛と色黒の手足、目ばかりギラギラして何日も食べていないであろう痩せこけた姿。

背格好からして年齢は、5歳には届いていないだろう。男とも女ともわからない。


「村が焼けたんだ。親を亡くしたガキぐらい、いても不思議はねえわな」


「で?けいは、その子をどうするつもりだ?」


「まさか連れてけ、ってのか」


「置いていくのか?」


「・・・小汚えガキだ。目つきも気に入らねえ」


「そうか。では、食うか」


サメは嘆息すると、思わぬことを言い出した。

さすがのゾンビおっさんが、思わずギョッとしてサメを見る。


「なんだ、食うって」


「ここに子どもを置いていけば、明日の夜明けを待たずに獣か怪物の餌だ。あるいは餓え死にして鳥の餌。どうせ何かの餌になるならば、ここで食ってしまっても構うまい。けいの臭い肉よりは、マシであろうからな」


「臭い臭いってうるせーんだよ。あー!!もう仕方ねーな!おい!次の村までだからな!いいか!次の村で必ず下ろすかんな!」


どうやら同乗を許可されたらしい、と理解した子どもは、いそいそと小さな両手でしっかりとサメの水桶を抱え込み、目を輝かせて荷台に座り込んだ。


「ずいぶん懐かれてんじゃねーか」


「子どもは純粋だからな。人格の差が直感でわかるのだろう」


「ふん。腹が減ってるだけじゃねーか?くそっ、今夜は食料を調達しねえとな。めんどくせえ」


けいも存外、臭いわりに面倒見はいいのだな」


「けい、くちゃい」


「うっせーぞ!このサメとくそガキ!すり身にして食わせんぞ!」


初っ端から臭い呼ばわりされて切れるゾンビおっさん。


こうして1人と1匹の珍道中に、珍妙な存在が加わったのである。

スローライフ無双とビッグマネーを掴む明日を目指して。

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