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第7話:旅立ちの1人と1匹

ゾンビおっさんは、力強い足取りで道を歩いていた。


空気は澄み、空は雲ひとつなく晴れ渡り、風が爽やかに吹き渡る。


まるで、ゾンビおっさんがビッグマネーをつかむサクセスへ至る澄みきった道のりを祝福するかのようにーーー


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なあ・・・」


「なんだ」


ちゃぷん


「どうして街に戻ったら駄目なんだ?」


「そりゃあ、けいがゾンビだからよ」


ちゃぷん


「ゾンビだとなんで戻ったら駄目なんだ?」


けいが若者に殺されるからよ。間違いなく」


ちゃぷん


「俺があんな若造に負けるってのか」


「間違いなく負ける。殺される。勝ち目はゼロだ」


ちゃぷん


「なんでだ。俺は、あの若造をぶっ殺さなきゃ気が済まねえ」


「相手もそう思ってるだろうよ。相手には仲間がいる。おまけに若い。正面からでは勝ち目がない」


ちゃぷん


「じゃ、じゃあ闇討ちとか、不意討ちとか、隙を突けば・・・」


けいの腐った心根の問題は脇に置いても、無理だろうさ」


ちゃぷん


「なんでだよ」


けいは大変に臭い。どれほど鈍い男でも、けいが近づけばたちどころに気づくだろうよ」


ちゃぷん


「・・・だぁーーーーー!!!ちゃっぷんちゃっぷん、うるせーーーーーっ!!!」


「お、おい!自棄を起こすな!私の桶がひっくり返る!貴重な水が!」


ゾンビおっさんが水の入った桶をひっくり返そうとするのを、サメが慌てて止める。


「ちゃっかり小さくなりやがって!そんな器用な真似ができるんなら、自分の足で歩け!!」


「大海原の王者が、汚れた大地にヒレをつけられるものか」


「喚び出した夜は、腹を見せたまんま、ヒレで地面を叩いてたじゃねえか」


「・・・あれはあれ。それはそれ、だ」


1人と1匹が衝撃的な出会いをしたあの夜から数日が経っていた。

ゾンビおっさんと召喚されたサメは、激しい戦いを経て互いを認めあい、種族を超えた固い友誼で結ばれた。

そして、大いなる使命を果たすべく旅立ったのだがーーー


「嘘を言うな、嘘を」


けいの果たした役割に多少の誇張があることは認めよう」


「誇張しかねえだろ!俺とお前が旅をするのは、完全パーフェクトに金のため!

 海まで行けば必ず金持ちになれる!っていうから、買いたくもない荷車を買った上に!

 お前が歩けねえから桶と水樽を買って!

 ちゃっぷんちゃっぷん音をさせながら、この糞暑い中、荷車を牽いてるんじゃねえか!」


「うむ。契約の一環とはいえ、けいの献身には感嘆の念を禁じ得ない」


ゾンビおっさんは、荷車を牽くのをやめ、だらしなく座り込んだ。

肉体的な疲れを感じない体になったとはいえ、生前の記憶で疲れるような気持ちになるのだ。

おまけに美人を載せているならともかく、荷物は口の達者な可愛げのないサメときた。


「ったくよお、お前は異世界から召喚されたすげー獣なんだろ?なんかこう、スパッと移動できねえのか。魔法かなんかでシュッと一瞬で遠くに行くとか」


「海に入りさえすえば、1日に千里を征することもできるのだがな。陸ではそうは行かぬ」


「じゃあ、河はどうなんだよ、河。河を見つけて、バーッと移動できたりしねえのか」


「うむ。河は・・・」


「河は?」


「この世界の河は泥で息苦しい上に寄生虫がな・・・要するに肌に悪い」


「こんの・・・なぁーにが肌に悪いだ!こんなザラザラした芋でも摩り下ろせそうな肌の癖に貴族の令嬢みたいなこと抜かしやがって!!」


「こ、こら、無礼者!その臭い手で掴みかかるのをやめんか!どのみち私一人で海にたどり着いても意味がなかろう。けいが金持ちになるのが旅の目的ではないのか!」


小さくなったサメが泳いでいる桶に突っ込んでいた手を、ゾンビおっさんがのろのろと引き上げる。

彼もわかっているのだ。これが単なる八つ当たりである、ということを。


「まあ・・・そりゃそうだがよう」


「ふう・・・アホで助かる」


「なにか言ったか」


「いや、何も」


ゾンビおっさんとサメの、海とビッグマネーを目指す珍道中は始まったばかりなのである。

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