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第5話:大海原の絶対王者

「び、びびらせやがってー・・・」


額の冷や汗を拭う仕草をするゾンビおっさん。

ゾンビは汗をかかないので生身の時代の癖のようなものだ。


それにしても危なかった。完全に死んだと思った。

生身だったら絶対に漏らしていた。


小でなく大まで漏らす自分の姿を想像して、ゾンビおっさんは戦慄した。


そんな醜態をさらせば、例え生命は助かっても、社会的に死んでしまう。


ゾンビになってから、酒も飲めず、飯も食えない、女も抱けない、楽しみといえば覗きと軽いセクハラ、という、なんのために生きているのかわからない体だったが、今回ばかりは自分の乾いた体にゾンビおっさんは感謝した。


「それにしても、でっけー魚だなーーー・・・・」


ゾンビおっさんは、改めて召喚扉ゲートから喚び出され、今は陸にうちあげらた巨大な魚を観察する。


野営の焚き火に照らされた姿は、四頭だての馬車よりも、さらに大きい。

ヒレでぴたんぴたんと弱々しく陸をうち、力なく全身を痙攣させているが、迂闊に近寄ればガブリとやられるかもしれない。


「剣はダメだな。即席でいいから槍がいる。小剣を枝に結びつけるか」


「・・・ま、まて」


「ったく、あの若造、逆恨みしやがって。容赦しねえぞ」


「お、おい・・・」


「っせーな!こちとらとさかに来てんだ、黙ってろよ!!って、誰だ!?」


ゾンビおっさんは慌てて抜剣すると、焚き火を背にして切っ先を闇夜に向けた。


宝石を狙う連中を撒くため、人目を避けて進んだはずの山中の野営地。

偶然に人がいる、などあり得ない。


「・・・そちらではない」


背後うしろか!と、慌てて振り返るも、視界を占めるのは、巨大な腹を見せた魚だけ。


「まさか・・・お前がしゃべってるのか・・・・」


召喚された獣は、人知をしのぐ存在だという。


人間の言葉を喋る怪物、という超自然の存在に、その全身から発散されるオーラに、さすがのゾンビおっさんも畏敬の念にうたれたせいか、語尾が僅かに震えるのを感じる。


「そうだ。私だ。臭きものよ」


「じゃっかましいわっ!誰が臭きものだ!みんなして臭い臭い言いやがって!!」


「気にしていたのか。それは済まんな」


本当に気の毒そうな声音が、またゾンビおっさんの気に障る。


「き、気にしてねーし!臭えっていうやつが臭えんだよーーっ!」


「落ち着け、臭きものよ。私はこう見えても美食家グルメなのだ。けいのように臭い肉を喰らったりはせん」


「臭そうな肉で悪かったな!」


「それにけいは一つ、大きな勘違いをしておる」


「勘違い?」


「私は魚ではない。サメだ。大海原を自由自在に泳ぎ回り、全ての食物連鎖の頂点に立ち、海洋の全てを喰らい尽くすもの。ときには竜巻と共に大空へ舞い上がり、地上の全てを喰らい尽くすもの。それがサメである」


「・・・ん?ええと、後半がよくわからんが、魚じゃねーのか」


「そうだ。私は大海原の生き物の頂点に立つサメである。魚などという知恵も知能もないうろこどもと一緒にするな」


「・・・頂点」


「そうだ。私がヒレをひとかきすれば全ての魚共は恐れをなして身を隠し、牙を向けば全ての魚を食いちぎる。それがサメ、というものである」


自称”大海原の王”のサメは、かすかに胸をはったらしい。


だが、死んだ目をしたゾンビおっさんからすると、陸にうちあげられヒレを力なく地にうちつけるその姿から、王の威厳とやらを想像することは難しかった。


「とりあえず、身はすり身にして売り払うか」


「待て待て待て!金だ!そう、けいは金持ちになりたくはないか!」


剣を構え直したゾンビおっさんに、今度こそ本当に焦った声で自称大海原の絶対王者サメは取引をもちかけてきたのだった。

サメの口調と呼びかけの認証を王者に相応しく変更しました。


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