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第4話:喚び出された獣

そこには、完全な暗黒と圧倒的な静寂があった。


その獣は、光一筋刺さぬ暗黒の中で微睡まどろんでいた。


その獣は人間が十人並んでも及ばぬほどの巨体を誇り


その獣の巨大な幾千もの牙は獲物を食いちぎる瞬間を渇望していた。


つと、その暗黒に小さな青い光が生じた。


その獣が動き出す。


光を求めて。獲物を求めて。


その獣の頭には、創造主から与えられた1つの命令だけ焼き付いている。


獲物を食い殺せ、と。


あの小さな光の向こうには、獲物がいる。


それは狩りの本能、生まれつきの殺し屋としての確信。


獣は加速をつけ一挙に召喚扉ゲートを超えて、獲物を食い殺すべく躍りかかった!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「な、なんだっ!?」


ゾンビおっさんは狼狽していた。


青い宝石が突然砕け散り、何かの魔法陣を描き出した刹那、眩い青光の奔流がほとばしり、死んだようなおっさんの目を眩ませたのだ。


「なんだこりゃ、やべえ!」


腐っても元ベテラン冒険者。修羅の経験で鍛えられた勘が、目の前の現象が生命の危機であることを知らせていた。

死にかけて回転の鈍くなったゾンビおっさんの脳味噌でも、目の前で起きている現象が何か、の見当ぐらいはつく。


即ち、召喚扉ゲートである。


つたないゾンビおっさんの知識によれば、召喚とは高度な魔法的儀式のはずだ。

呼び出される人知を超えた何か、に言うことを聞かせるにも魔法が必要なのも間違いない。


つまりは、罠だ。


「くっそーっ!あんの若造がっ!俺を殺す気だったのかっ!なんでだっ!」


後悔は先に立たぬという。それでも、往生際が悪くゾンビおっさんは走馬灯のように過去の己の所業を思い起こしていた。


パーティーに入ってきた頃の新人の若造をイビってこき使ったことを根に持ったのか。

それとも小腹がすいて野営の食料をちょろまかしたことを根に持ったのか。

水くみをしている上流で小便をしたことを根に持ったのか。

あるいは親の形見だという愛剣を博打の質に入れたのを根に持ったのか。

それとも・・・


くそっ!なんて器量の小さいやつだ!どうでもいいことを根に持ちやがって!


ゾンビおっさんの走馬灯は途中で断ち切られ、死、という無慈悲な現実は襲い掛かってくる。


地面の召喚門から空へ舞い上がった巨大な怪物は、空中で優雅に向きを変えると、顎を全開にして飛びかかってきた。


(あ、死んだわ、こりゃ)


自分の身長を遥かに越える巨大な顎にびっしりと並ぶ幾千もの牙を視界一杯に納めたとき、さすがのゾンビおっさんも死を覚悟して両目を固く瞑った。


願わくば、せめて苦痛なく死ねるように。


だが、死は物語のように綺麗に訪れてくれたりはしない。


まず、耳をつんざく巨大な衝撃音。続いて全身に石や土が叩きつけられた。

そして、何かの液体が自分にかかるのを自覚する。熱い。これが血の熱さか。


もはや全身の痛覚がないのか、痛みは感じない。


(早く終わってくれ。くそっ!神様!)


ぺしゃり。


(ぺしゃり?)


ぴたんぴたん。


(ぴたんぴたん?)


天国にしては奇妙な音がする。


ゾンビおっさんは恐る恐る目を開ける。


すると、目の前には馬車を何頭も並べたような、巨大な魚?が腹を見せてひっくり返っていたのである!


「な、なんじゃこりゃあ・・・」


保身のためなら高速回転するゾンビおっさんの舌も、目の前の光景にさすがに言葉を失った。


これがスローライフ無双生涯の友、ゾンビおっさんとサメの出会いであった。

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