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赤い鳥の思惑


「誰なんだ!お前は!」


目の前のおじさまは完全に取り乱しているようね。

程なくして首領らしき男が手下を連れて飛び込んでくる。

「てめぇ、大人しいのは振りだけか!」

はあ、楽しかったのに。

そろそろタネ明かししようかしら。

「あっ!お前、陶家の!」

「あら、奇遇ですわね。」

先日揉めた紫家に繋がる男達に笑顔を向ける。

彼らがここにいる理由は、放逐されたか、都合よく尻尾切りされたか。

どちらにしても、大物が釣れそうね。


「さて、問題です。なんでこれを見つけた私が未だにここにいるのでしょう?」

ガツンと勢い良く足を叩きつけて床板を踏みぬく。

床下には先程下見をした穴がぽっかり口を開けた。

「なっ!」

おじさまと首領らし…呼ぶのが面倒ね、犯人でいいか。

彼らが真っ青通り越して、顔色が真っ赤に変わる。

内心で怒り狂っているのか、それとも気づかなくて恥ずかしのかしら?

どちらにしても結果は覆らないけどね。

なぜならすでに勝敗は決しているのよ。

私を獲物として選んだ瞬間に、彼らは陶家を敵に回した。

全ては()の手のひらの上。

桂花は、ニヤリと笑う。

「そういえば先ほど貴方が連れてきた若い男はどこかしら?」

はっ、と犯人達が辺りを見回すけれど、当然ここにはいない。

あの人(・・・・)、荒事苦手だから。

遠くから微かに聞こえていた激しくぶつかり合うような音が、だんだんとこちらに近づいてくる。


「あらあら、お客様が増えそうね!!」

「こうなったらこいつだけでも人質にして…」

「できるかしら?制圧は出来なくても、時間稼ぎ位は出来るように仕込まれたのよ。」

すかさずにっこり笑って言い放つ。

いやー、あの訓練の日々は思い出したくもないわ。

服の間から細身の剣を取り出す。

「いつの間に…」

「か弱いと、舐めてかかって身体検査を省くからよ。」


さあて、溜まった精神疲労を発散させていただきます!



ーーーーーーーーーーーーーーー


「なんでこう、陶家の人間は荒事に手馴れてるんだ?!」

「私が聞きたいのは、隆輝様、貴方が先頭きって戦ってたことなんですが。」

臣下に降ったといっても、一応帝の血を引く由緒正しき方だ。

こんな場所で怪我でもさせたら面ど…申し訳ないじゃないか。

「領地が海沿いですから、他所から荒っぽい気性の人も来たりするんですよ。立場的に怨みを買うこともありますし。しかも、我が家の方針は『やるなら徹底的に』なので、私の場合は武芸全般から秘密裏に動く場合の手順まで、割りと手広く講師から指導受けました。」

私の説明に絶句する隆輝様。

まあ、普通はその反応よね。

犯人達は、私が生かさず殺さず…これが私の時間稼ぎね、をしている間に飛び込んできた隆輝様はじめ護衛の面々に打ち倒された。

隆輝様は随分と荒っぽいやり方で進んできたようで、髪も服も乱れ、返り血を浴びており、随分と凄惨な雰囲気だ。

更に戦場で培われた鋭い眼光を隠しもしないから、獲物を狩った後の狼みたいな風情で、普通のご令嬢なら見ただけで卒倒してしまうことは間違いない。


私?

私は…格好良いかな、なんてちょっとだけ思いましたよ?

ちょっとだけね!!


「あ、終わった?」

「兄様、お願いですから、偉い人(隆輝様)巻き込むのやめて下さい。」

「えー、だって失敗した時に責任取る人必要だったし。」

来たな、元凶(はらぐろ)

兄の言葉に隆輝様が凄い速さで振り向いて凝視している。

あれ、隆輝様、今更じゃないですか。

残念ですが昔からこういう人ですよ。


ふと、昔、という言葉に引っかかりを覚えた。

記憶のどこかで、こんな会話を交わしたような。

おぼろげなままに霧散した記憶。

わずかに首を振り、追い出す。

今は瑣末なこと。

外面のよい兄が一癖も二癖もある人間なのは昔からのことなのだから。

兄様…陶煌達(こうたつ)は陶家の長男にして、現在は帝都で政府機関に勤めている。

私が喧嘩売られた雑魚の棲家である、紫家の次期当主である鄭舜様の下で働いていた。

ちなみに貴族階級の悪事や不正を暴く内偵(わるだくみ)(笑)が主なお仕事だ。

今回は多分、帝都を騒がせた人攫いの一件でこそこそ内偵(わるだくみ)(笑)していたら犯人達が自分の領地を経由させている事に気付いて都合よく実家を巻き込んだんだろう。

「だからといって、ノリノリで犯人達の組織に紛れ込んでみたり、誘拐する獲物に妹を設定するなんてやり過ぎだと思いますよ?」

証拠は私の周囲を密かに警護している陶家の人間が手出ししないわけがないから。

うっかりでも見過ごせば、父様による地獄の特訓が待っているのだ。

恐怖を刷り込まれた彼らがそんなうっかりをするわけがない。

それにしても私を巻き込んだら、最悪父様が乗り込んでくる事案だってことに気が付いてます?

「いや、巻き込もうとしなくても桂花くらい綺麗で可愛い女の子なら目が眩んで食い付くだろう?だから桂花の周りを飛び交う害虫は速やかに排除しないとって言ったら、当主である父様の許可が速攻で下りたよ。それに隆輝様から桂花に話があるとのことでね、機会を設けてほしいと言われていたから、ついでに。」

あれ、隆輝さま、急に咳き込んでますけど風邪ですか?

あと兄様ってば黒い思考が顔にでて笑顔すら真っ黒ですよ、皆が怯えています。

「囚われのお姫様を救うのは、兄の仕事だからね!!光栄だよっ!!」

「設定がだいぶお伽噺とズレていますよ、兄様。そういえば、隆輝様。華凉との街歩きは如何でしたか?もしかするとこの一件でお邪魔してしまったかもしれませんが、良ければ戻られて…」

「いや、その必要はない。」

それまで無言だった隆輝様の存外強い口調に驚く。

何かあったのだろうか…。

「煌達、彼女は昔からこうなのか?」

ため息をつきながら煌達に尋ねる隆輝に対して、煌達はそれはもういい笑顔で頷く。

「実はうちの妹、昔は凄く人気があって随分婚約の話が来ていたのですが、本人が鈍くて全く相手にしなかったんですよ。そしたらいろいろ拗らせてこんな残念な子になっちゃったんです。」

…残念ていうな。

しかも婚約の話は初耳。

あれ、本人が知らないておかしくない?

「…兄様?」

すっごい勢いで目を逸らしますね、貴方が原因ですか。

あれだろう、相手のことを探りにいったら気に入らなくて秘密裏に話を潰していったと。

昔も今もやってること変わってませんよ、兄様。


「それで、私…俺は認めてもらえるのかな?」

ゆるい雰囲気が一転して緊張感が漂う。

兄様は普段見せないような厳しい表情でひたと隆輝様を見つめる。

隆輝様は余裕のない表情で、でも視線だけは逸らすことなく兄様の視線を受け止める。

やがて、兄様がため息をつきながら視線を外す。

「…認めますよ。これは当主も同意してます。それよりも、本人をちゃんと口説いて落としてくださいね。かなり手強いですから。」

兄様の言葉に、隆輝様はホッとしたような笑顔を見せた。

「勿論。そのつもりで来たのだから。」

いいな〜華凉。

姉より先に婚約するのね、この薄情者!

しかも、隆輝様やる気だから、これは口説き落とされるのも時間の問題…。

「…多分、今斜め上な思考してますから、早めに口説いたほうがいいですよ。」

「そのようだな。」


呆れたような兄様の言葉に、同じく呆れたような表情でそう返事をした隆輝様はするりと私を抱え上げた。


な、なぜに私を?


「借りてくぞ。」

だから、なぜに?


「ご自由にどうぞ〜。」

兄様!?貴方のか弱い妹が拐かされてますよ?


「うん、か弱くはないかなー。」

兄様、のんきに人の思考読んでないで助けて!?


人攫いの犯人達もびっくりの手際の良さで、私は隆輝様に抱え上げられたまま街一番の旅館に到着、旅館の人の計らいで湯浴みをしたあと、新しい服に着替えている。

そして今、特別室に案内されているところだ。

「失礼いたします。」

「どうぞ。」

中から聞き慣れない声で返事があったものの、躊躇わず入り口から入る。

一応、臣下としての礼をとり、目線を下げたまま室内を進む。

「ほら、お前のせいでまた警戒したじゃないか。」

隆輝様の唸るような声が聞こえる。

「己のヘタレ根性を恨んでください。未だに口説いていないなんてどれだけ寄り道したんですか。…突然失礼しますね、陶桂花殿。」

顔を上げてください、と言われ相手を確認すると、薄茶色の髪にスミレ色の瞳。

まさか…。

「はじめまして。私は紫鄭舜。貴女のことは隆輝様からも貴女の兄からもよく聞いていますよ。」

なかなか楽しい性格をしてるよね、と言われてしまったのだが兄様、どれをバラした?


「今回の一件は馬鹿な身内の仕業でね、だから被害の拡大を防いでくれた貴女に一言お礼を言いたいと思って。」


兄様が言っていたのだが、紫家の今のご当主は、大人しく優しい性格をされていて、それをいいことに親族が牛耳って随分好き勝手な事をしてきたらしい。

今回の件は、潰す証拠も固まったので身内の膿を出していってる最中、最後の悪あがきなのか、家の権力が及ばない場所での勢力拡大を狙ったのか派手に動いた結果らしい。

「今回のことで、根こそぎ馬鹿は処分出来たから助かったよ。」

お礼に隆輝様との件は根回し頑張ったからね、身分差は問題視されないと思うよと言って、鄭舜様は部屋を出て行かれました。


…すみません、全く話が見えないのですが。




すみません、話が膨らみすぎて終わらなかったので、もう一話本編追加します。

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