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赤い鳥は誰のもの  作者: ゆうひかんな


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13/26

宴の後始末

「そろそろ来るんじゃないか?」

「そうですね。急ぎの仕事がないときは大体この時間に姿を現すのですが。」

今日は遅いですね、紫鄭舜がそう呟いた時。




バッターーーーン!!




執務室の扉が慌ただしく開き、男が一人飛び込んで来る。





(とう)煌達(こうたつ)

すでにとうの姓を賜ることが決まっているため煌達と呼ぶべきか。

人当たりのよい笑顔や、身内からは『ふてぶてしい』とも称される落ち着いた態度は欠片も見えず、感情が一周回って突き抜けたのか無表情な上に、服装も見苦しくない程度に乱れ、その様子から前日の残務処理に奔走したのち慌てて家を出てきた様子がうかがえる。


「おう、遅かったな(・・・・・・)。」

それを開口一番に迎えたのは、帝の弟君(おとうとぎみ)であり現在は南陵関にて南方将軍位を授かり多数の精鋭を率いる青隆輝。"蒼い狼"とも呼ばれ普段は殆ど表情を崩さない男が、その精悍な顔立ちに珍しく笑みを浮かべている。


ここは帝都にある御所中心部に位置する執務室。

余計な緊張感を与えぬよう廊下や部屋の周囲には最低限の護衛しか配されていない。

今上帝である劉尚の意向により許可を得た者は、身分により咎められること無くこの部屋まで辿り着ける。安全性を疑問視する声もあるが、側近達は主が戦でも十分に活躍できる程の剣の腕前を持ち、見かけの優美さと裏腹にわりと好戦的な性格であると知っているが故に余り心配していない。むしろ自身に向けられた刺客を手懐け、護衛として雇う程度に肝は座っている。



「…遅かったなじゃ、ありませんよ。」

切らした息を整える間もなく一息に言い切った煌達。



「そのセリフの後に続くのは『なに人に黙って相手決めているんだ』とか、『隣国の第二姫が伴侶なんて畏れ多い』、あたりでしょうか。あんまりにも普通すぎるので、反論があるなら斬新な視点からの意見をお願いしますね。」

言葉に詰まった様子の煌達を横に、鄭舜は淑女の皆が色めき立つという極上の笑みを浮かべ言い放つ。


「しかし本人が知らなうちに婚姻の話を進めて、しかも妹の披露宴にぶつけてくるなんてどう考えても、なしでしょう!お陰で主役を差し置いて別の方向に盛り上がり桂花の晴れ舞台は台無しですよ!ああ、桂花に『兄様なんて大嫌い!』とか言われたらどうしよう…何のために殆ど寝ないで準備したんだろう、俺。」

煌達は天を仰ぎ崩れるようにひざを突く。


「残念だがそれは首謀者が『お前の驚く顔が見たい!!』という、子供じみたその一念だけで計画されたからだ。ほら見ろ。無事に目標が達せられて大満足のようだぞ。」

隆輝の指差す先を辿れば声を上げて笑う劉尚の姿があった。

そちらへ、じっとりとした視線を向ける煌達。

「部下で遊ばないで下さい!」

「いいじゃないか。相手はお前がずっと想い続けた相手だろう。

良かったな、想いが実って。」

「なっ!」

「バレてないと思っていたことの方が驚きですよ。」

「…。」

「策略で嵌めた、やり返した、なんていう殺伐とした会話を笑顔で出来る男が、こんなに狼狽えるとは…これはなかなか新鮮ですね。」

鄭舜も同じく驚きの表情を浮かべたのを見て劉尚は満足そうに頷く。


「第二姫…沙羅さら姫に感謝しろよ?

二人の結婚に纏わる障害を全てなぎ倒したのは、あの方自身だ。」

「沙羅様が。」

「隣国から戻ってきたお前の報告を受けて、おかしいとは思っていたんだよ。人物の評価に姫がほとんど含まれていなかった。お前の場合、意図的に報告を省いたとしか思えないからな…まさかこんな艶っぽい理由があるとは思わなかったが。」

「後日隣国の王家から劉尚様へ親書が届き、貴方の人物評価についての問い合わせと第二姫との婚約の打診が来たときには何事かと思いましたが、事情を聞いてみれば納得出来ましたし、国としてもよい話だと思って受けたのですよ。」

楽しそうな声で鄭舜が補足すると煌達は視線を逸らす。

バレると面倒だと思ってわざと報告しなかったことが裏目に出るとは。

「ならば董姓を私に与えたのは陶の分家としての立場ではないということですね。」

「隣国の第二姫が降嫁されるんだ。地方の一豪族の息子という身分では隣国が納得しないだろう。董姓は紫に由来を持つ姓。隣国の王族には、お前に紫家に縁を持つ姓を名乗らせ新たな家を興させる事で納得させた。」

「体外的には紫家から独立した家としての扱いですので、そちらの業務に支障がないよう家人にはよく言い聞かせておきますね。」

鄭舜はそう言った後、笑みを深める。

「ただそれでも馬鹿は湧いて出るでしょうからその時は遠慮なく報復して構いませんよ。むしろそんな無能は要りません。」

「それが目的ですか。」

紫家は大きくなりすぎた。

権力の中枢に位置するあまり、帝の権勢を我が物と勘違いするほどに。

そのため分家も含め人物をふるいにかける必要があった。

家にとって有益となる判断を下せる人物であるかどうか、の。

そのふるいのひとつが青家、そしてもうひとつが。

「董家、というわけですか。」

「それだけが理由じゃないぞ。」

今度は隆輝が面白そうな笑みを浮かべる。

「運良く機会を得たんだ。

新しき門出に相応しく、色んな柵から解放してやりたいと思ってな。」

煌達は目を見張る…そこまで知られていたとは。

「我らは帝に連なるもの。国と陶家の深き因縁を知らないわけがないだろう。」

三人揃って笑みを浮かべる。

彼らは先帝から直接教えられた。

陶姓は事情があってつけた仮の姓であることを。


由来を現す本来の当て字は"とう"。

桃は紅と白より生ずとされ、紅家の陰で決して表に出ることのなかった一族。

「陶が元は紅家の分家のひとつで桃姓を名乗っていた一族であることは帝に連なるものでも一握りしか知らない。」

劉尚は表情を真剣なものに変えて煌達を見つめる。

紅家が表の顔であるのなら。

その頭脳として、情報を操り裏側の全てを仕切る役割を果たしていたのが桃家だった。

さて武の誉れ高い紅家を支え忠義を尽くしてきた一族が何故桃姓を捨てたのか。

そこには二つの理由があった。


ひとつは紅家が首謀して引き起こしたとされる内乱。

通称"紅家の乱"。

力を持ちすぎた紅家が帝に牙を向いた一件で、再三桃家当主が止めたにも関わらず挙兵した暴挙に対する抗議。実際苦言を呈したことで紅家当主に疎まれ遠ざけられていた間に挙兵したのだから桃家としては協力することは出来ないと当主は判断した。

そしてもう一つの理由は。


猩々緋の瞳を持つ子が桃の分家に産まれたこと。

その報告を受けた紅家は激怒した。

『由緒正しき血統である紅家を差し置いて、たかが裏の分家ごときに猩々緋の瞳を持つ者が産まれるなどあり得ない。その子は正しく妖に違いない。』

そう言って産まれたばかりの子を殺すことを命じたという。『猩々緋を持つとはいえ産まれたばかりであれば殺すことも容易いだろう』と。

桃家の人間からすれば猩々緋の瞳を持つ者が紅家当主を継ぐ決まりがあり、それを阻止しようとする者達の思惑が透けて見えた。当時紅家は珍しく子宝に恵まれて男子が三人も産まれており、順当にいけば力あるものが紅家を継ぐと思われていたから。


…紅家の当主の座が欲しいなど願ってもいないのに。

命を受けた瞬間に、桃家当主は紅家を見限った。


そして一計を案じる。

当主は分家に事情を話し桃本家とは決別したとして金品を与え産まれた子共々身を隠させた。それから嫁探しという予想外の理由で国を出、紅家の視線を自身に集める一方、国に残った手の者が戦況の思わしくなかった帝側の人間と接触、紅家を裏切り帝側につく手筈を整えた。

余談だが偶々巡った地で妻となる女性を見初めたのは純粋な一目惚れで、計画にはなんの関係もないことだったらしい。当時の記録には『なんか強そうで素敵!って思ったから』と当主が言ったとされている。

そして自身と嫁(仮)の参戦により紅家の乱が終息すると同時に桃家当主は家名を"陶"と変え、新たに領地となった胡泰地方へと居を移した。陶家が執拗に紅家の残党から狙われたのは彼らからしてみれば裏切り者であるからなのだ。


「よく今まで陶が"桃"であるという秘密が守られてきたよな。」

感心するように呟く隆輝に、それはそれはいい笑顔で煌達が言った。

「紅家の残党辺りから漏れる可能性はあったのですけれどもね。紅家は武でのしあがった家柄です。家風と気質が邪魔をして、長い年月をかけても情報の重要性を理解するには至らなかったのでしょう。実際戦に破れて地下に潜った後も、情報操作という地味な努力を良しとしなかったようですから。それに紅家は気位が高い故に排他的でした。自分達がもっとも優れていると思い、思い込まされてきたから他家の力を借りるという発想がない。だから結果的に我々の秘密は守られた。…まあそれもこれまではですけれども。」

ここで煌達は一つ溜め息をつく。

今回の襲撃にあたり、紅の残党は陶家を邪魔に思う紫、欧、珀と手を組んだ。ということはこの三家には情報が漏れているだろうとの予想はつく。かの三家はここぞとばかりに醜聞にしたて意趣返しのありもしない噂を流すだろう。

「新たな当主となる華凉が一人で好奇にさらされるかと思うとやりきれませんが。」

「大丈夫だと思うぞ。それすら利用する気満々のようだったから。」

「利用する気、ですか?」

「彼女は非常に評判が高かった…いや、高すぎたんだ。

内々に私の嫁候補として名が上がる程度にね。」

隆輝の言葉を肯定するように劉尚は口元を緩める。

煌達は、ぎょっとした表情で二人を見つめた。


「ああ、安心していいよ。今回の噂によってそれは無くなるから。」

国に味方したとはいえ、裏切り者の血が流れている。

その一族の血を引く彼女を帝の伴侶に迎えることは、いくら本人の資質が高くとも帝の周囲の人間には受け入れられないだろう。


「そんなわけでバレたならこの際上手く利用しようと思って。今回それら(過去)を国にとって都合のいい形で広く公表し、今までの恩賞として地位を与えることにした。これで家格は三家よりも遥かに上、藍と同等、紫家よりちょっと下位かな。紫と同等にするには表立った実績が足りないから仕方がない。でも家としては無視できない存在になったことは確かだから。今までみたいに家の権勢を傘に逃げ切ることは難しくなるだろうね。」

「格下とされる三家から横槍は入らなかったんですか?」

「きたぞ。『畏れながら申し上げます』と各家の当主がまるで長年隠してきた秘密を打ち明けるようにして、ひっそりと面会を申し入れてきた。『本来ならばもっと前にお伝えすべき事でしたが、あの忠義に厚い陶家が裏切り者の血を引いているとは信じられず』とか神妙な顔で言って、話がわりと面白かったから最後まで言い分を聞いておいた。随分と面白おかしく脚色されてたぞ。」

「私も聞きましたが上がってきた報告の裏を取るなんて常識でしょうに。『まさかこんな嘘の報告を奏上して帝の権威を汚すなど当家では考えられません』の辺りで爆笑しそうになりました。どれだけ我々を無能扱いしているのでしょうね。」

「それでどうしたんです?」

「うん?そのままを伝えたぞ。『陶が"桃"であることも、紅家との繋がりがあったことも全て知っている』と。それから直近から五年分、陶家が関わった件全ての()(陶家)の報告書の束を並べて『足りないなら鄭舜に書庫まで案内させるが?』と言ったら、顔色を真っ青にして帰って行った。」

その様子を思い出したのか声をたてて笑う劉尚に、口元を緩める鄭舜。

隆輝を含め三人に向かい、深々と礼の姿勢をとる煌達。

「私を…陶家を信じていただいてありがとうございます。」

「ああ、それはな。」

「当然だからですわ!だって私が伴侶にと望んだ方とその一族の者ですもの!」

突然執務室に響く女性の声。

明朗にして麗しいその声は劉尚の後ろから聞こえるようであった。

その声の主が劉尚の後ろに引かれた幕を上げ姿を現す。


「沙羅、様?」

「あのね、来ちゃった!」

その瞬間に礼の姿勢のまま崩れ落ちる煌達。

再び笑い声が執務室を満たす。

「来ちゃった、じゃないでしょう!隣国の姫がホイホイと買い物にでも来る気軽さで遊びに来るなんて何考えてるんですか!!」

珍しく声を荒げる煌達に、沙羅姫はしゅんとした表情を見せる。

「だって貴方に会いたかったんですもの…。駄目でした?」

「…駄目じゃ…ないですけど。」

その言葉に姫が花が開くような笑顔を浮かべるのを確認して煌達の頬が安堵で緩む。

それをニヤニヤしながら見つめる視線が三つ。

「なるほど。無駄に労力をかけなくても姫を招待するだけでよかったのか。」

「だから言ったでしょう。姫なら一瞬で煌達の余裕な態度を崩せると。隆輝様、賭けは私の勝ちです。南陵関では必ず桂花様にお目通りさせてください。」

「何を聞き出すつもりだ!事と次第によっては裏技(野郎共)を使ってでも。」

「だから部下で遊ばないでくださいって言いましたよね!」

「まああああ!!!殿方と仲良くされる煌達様も素敵ですわ!」

若干斜め上な姫の発言に、一瞬にして静まり返る執務室。

その空気を知ってか知らずかニコニコと笑顔を浮かべ煌達を見つめる姫。

その輝く瞳はどこまでも澄んで…吸い込まれそうになる。

煌達は溜め息をついた。

この混乱を納める方法はただひとつ。

「沙羅様、逃げましょう。」

「もちろんです!」

「それから貴女に見せたい場所があるんですが。」

「ええ、言ってたわね!覚えてるわ!今回はそれを見に来たの。」


煌達は優しく手を引きながらそっと姫の耳元に顔を寄せ、そそくさと執務室を後にする。

その背中を穏やかに見つめる三つの視線があったことを彼は知らない。



ーーーーーーー



やがて静寂を取り戻した執務室では。


「すまなかったな、隆輝。姫と煌達を守るためとはいえ、二人ための披露宴を利用した。」

微妙に表情を曇らせた劉尚とは対照的に隆輝は笑顔を浮かべる。

「帝ともあろうお方が臣下に謝罪することがあってはなりません。それに陶家の家訓は『使えるものは何でも使え』らしいですよ?桂花がこの場にいたら確実に同意してくれます。」

「その奥方の様子はどうだ?」

派手に屋根から落ちたらしいじゃないか、そう言って劉尚と鄭舜は声を上げて笑う。

「あいつなら足を挫いたせいか熱を出しまして。陶家でそのまま養生させてます。本当は今日南陵関に戻る予定だったのですが無理にその状態から動かせませんからね。部下だけ先に帰して桂花の状態が良くなったら連れて戻ります。」

本日はその報告に立ち寄りました、そう言って苦笑いする隆輝に劉尚は心配そうな視線を向ける。

「奥方がそんな状況なら帰った方がいいんじゃないか?」

「いや、それが…。」

「…ああ、何となく現状が推察できました。たぶん奥方を心配して看病にあれこれ手を出そうとしたら、鬱陶しいとばかりに女性陣から追い出されたのでしょう。」

「…華凉にやんわりとだが"駄犬"呼ばわりされた。」

「青い狼も形無しですね。」

軽く落ち込む隆輝に対し残った二人は何も言わず微妙な視線を向ける。

これから新妻と甘い新婚生活が待っているのだ、多少邪険に扱っても許されるだろう。

「それにしても沙羅姫は流石ですね。こちらの事情も加味して皆が最も納得する方法で煌達を手に入れた。」

「元々恩賞として陶家に位を授けることを決めてはいたが、そこに新たに董家を立て煌達を当主とするよう条件をつけたのは彼女だ。陶家の働きは国の知るところであっても人々には見えにくいものだ。青家当主となった隆輝との婚姻を結ぶにあたり、家格を上げるという意味合いで押しきったとしても、余り派手に取り立てると主だった家から反発を受ける。それこそ横暴、権力の専横等という謗りを陶家や国が受ける可能性がある。」

「そんなとき沙羅姫が煌達を望んだことによって我々は大義名分を手に入れた。『隣国の姫が降嫁されるため、相手となる者の家の格を上げる』という大義名分が。しかも陶家の当主に嫁ぐのであれば権力が集中することを懸念する動きが出てくるかもしれませんが、分家ではなく董家という新たな家が立つというのなら、寧ろ陶家の力を削げると安易に考える者が出てくるでしょうね。」

「華凉の力を正しく計れていないものは喜んでいるだろうな。表だって反発の声が上がらないことからもそういう人間の方が多いと言うことだろう。」

あのふんわりとした外見に騙された人間が多いということでもある。

全員が、今頃高笑いしているだろう陶家の青い鳥の姿を思い浮かべる。

「本当にあの性格の悪さは逸材でしたよね。勿体無いことをしました。」

「鄭舜、それは女性に対する誉め言葉ではないよ?」

「暫く煌達は使い物にならないでしょうから人手が欲しいんですよ。」

「華凉は駄目だぞ?あの容姿だ。人目につきすぎる。」

「彼女を雇えば同時に、いくつもの重宝な人手がついてくるでしょう?」

隆輝の脳裏に蒼月と緋葉の姿が浮かぶ。

「彼奴らは清々しいほど華凉の指示しか聞かないぞ?」

指示がなければ誰も家人の護衛につこうとしないというのだから徹底している。

「逆に指示さえあれば十分に働いてくれるということじゃないですか。」

一人くらい貸してくれないか、本気で算段を始める鄭舜を放っておいて隆輝は兄へと話の矛先を向ける。


「…兄上は本気で華凉を望んだのですか?」

敢えて兄と呼んだのはここから先は個人としての会話であるということ。

肘掛けに寄りかかり思案するような表情を見せていた劉尚は、真っ直ぐに弟の視線を受け止める。

「私の婚姻は立場的なものが優先されるからね、はっきり言って恋愛感情のようなものは無いよ。彼女の性格や実績からまつりごとで多少は楽が出来る、その程度の認識だったよ。身分だけで言えば彼女より上の候補者はたくさんいるしね。それに今回の件がある前、偶然彼女と話をする機会があったのだが、やんわりと断られたし。まだ彼女の名前が候補の一人に挙がったばかりの頃だったから、その情報収集能力の高さには戦慄したよ。」

「彼女は何と断りを入れたんです?」

内容や状況によってはただの思い込みでは済まないだろうに。

兄が面白がっている様子から変わったことを言ったのだろう、そのことは推測できた。

「ふふ、それがね。」


『空を自由に飛ぶ青い鳥は愛するものを探して、ちゃんと見つけたそうですわ。私も、それにあやかりたいと思っておりますのよ。』


桂花のように、すっぱりと断らないところが華凉らしい。

貴族階級に生まれればまつりごとと婚姻が切っても切れないものであることを知っている。

それに付随して縁が繋がっていくことも。

それでも。

「随分と可愛らしい"お断り"だな。」

「遠回しに断って相手の度量を計るあたり、陶家の人間らしいと思ったよ。」

「なるほど"青い鳥"は自身で相手を見つけたということですか。」

青い鳥が幸せを運んでいた。

愛しいひとへ、縁を、富を、名声を。

そんな昔話になぞらえて。

『鳥に例えられる自分は、愛するものを自分で選び見つけます』と。

「さて、兄は片付いた。

残った青い鳥(華凉)は誰のものになるのかな?」

巷では彼女の評価は鰻登りだという。

陶家は将軍位を賜り、長女は青家当主に望まれて玉の輿。

さらに長男を見初めた隣国の姫が降嫁する。

これらの吉事は全て青い鳥への神の御加護だろう、と。

「紅家との繋がりが噂になれば敬遠する家も出てくるだろうが、それでも彼女と縁を繋ぎたいと思う家はあるだろうな。」

特に華凉が家を継ぐことを発表しているから、後継ぎ以外の男児を持つ家は目の色が変わっているらしい。本人の見つけた相手というのが誰かはわからないが、ちゃんと想いが叶えばいいと隆輝は思った。

何となく、あの男かという予想はついているが、さてどうなるか。


「そういえば、煌達と姫は何処へ向かったんだ?」

「多分あの場所でしょうね。」

「…お前、そんなことも知ってるんだな。」

「部下の動向を把握するのも上司の役目ですから。」

理解できない者を見る、そんな表情で隆輝が振り返ると極上の笑みを浮かべた鄭舜の後ろで、笑いを噛み殺した劉尚の姿が見える。


賑やかな宴の後は寂しく、物悲しいもの。

かくて人々の熱狂と僅かな混乱の跡を残して宴は静かにお開きとなった。






ちょっと長目になりました、

筆が進まなくてこんなに間隔が開くとは…。

兄と妹のお話しも書きたいです…願望ですが。

お楽しみくださいませ。

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