僕の希望理由
学校で進路希望調査のプリントを渡された。
自室で一人、机に向かう。
プリントには、どの学校に進学するか、それとも就職するかといったことを記入するようになっていた。
僕は進学予定の大学を偏差値順に並べて書いた。
そこまでは順調だった。
そこまでは、といったのはまだ記入しないといけない項目があったからだ。
それは『希望理由』といった項目だった。
『希望理由』
僕は少し困った。
なんて書いたらいいのだろう。
僕が大学進学を選んだ理由はいくつかある。
ひとつは、ほとんどの人が大学進学を選ぶから。
ひとつは、学校を卒業して働いているイメージがつかなかったから。
そういったことを書いてしまっていいとは到底思えなかった。
もっと適切な理由が必要だ。
将来たくさんお金を稼ぎたいから。
学生生活をもう少し堪能していたいから。
こんなことを書く訳にはいかない。
僕は少し真剣になって大学に行く理由を考えてみた。
僕は大学に行ってなにをするのか。
大学を出て何になりたいか。
なりたいものといえば、作家、だよなあ。
僕の夢、物語を書く仕事につく事。
小説、脚本、漫画の原作、なんでもいい。
とにかく物語が書ければなんでもいい。
現実的じゃないことは明らかだけど、作家は僕のなりたいものに違いなかった。
でも、大学の『希望理由』に作家になりたいから、とか書いていいんだろうか。
…いいんだろうか。
僕はそれから少し考えて、『文芸についての教養を深めるため』とだけ書いた。
電気を消して、ベッドに寝転がった。
結局適当な理由になっちゃったな。
作家、か。
僕は作家になれるのだろうか。
もし、この葛藤が小説になっていたとしたら―僕はハウツー本のある一節を思い出した―物語の前後で主人公に変化がなくてはならない―この小説にはオチがないんだろうな、と思った。
いや、しかし日常系だと考えれば―長い物語の一節だと思えば―。
その晩、妙に頭が冴えて眠れなかった。