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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
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依頼を終えて旅立ちへ

 

 あれから俺とシスティは逃げたゴブリンを追いかけた。


 ゴブリンの逃げた足跡を辿っていくと、ゴブリンの巣へとたどりつくことができた。


 後方の魔法使いがとんでもない誤射魔法使いなので、今回は一人で斬りこんだ。


 斬るというよりかは最終的に殴る、蹴るといった打撃の方が多かったのだが気にしない。


 身長が高い俺からすると、身長の小さいゴブリン相手に短剣を当てるのが面倒なのだ。


 脳筋のようで遺憾であるが、殴って蹴るほうがゴブリン相手には楽だ。


 一度はゴブリン達を逃がしてしまった俺達だが、結果的には効率よくゴブリンを倒す事ができたのである。


 討伐証明であるゴブリンの耳を切り取った俺達は、念のために日が暮れる前までゴブリンがいないか森を探索し、帰路についていた。


「デュークってば凄いわね。短剣でゴブリンを真っ二つにしちゃうし。ゴブリンをボールみたいに蹴り飛ばすパワーもあるし。魔の森を抜けてきたとか言うくらいの実力はありそうね」


「パワーと防御力には自身があるからな」


 俺が防御力と言ったことで先程のフレンドリーファイアを思い出したのか、システィが気まずげに視線を逸らす。


 いや、嫌味のつもりで言ったんじゃないですよ?


「ねえ、身体は大丈夫なの? 回復魔法のヒールくらいならできるから手当てするわよ? さすがに神殿の聖女みたいな回復魔法は使えないけど」


 それはフレンドリーファイアをするお前に必須な魔法に違いない。


 というかこの世界には聖女なんて奴がいるんだな。


 やっぱり、あれだろうか。その聖女とやらは、神殿が誇る特別な力の担い手で、凄い回復魔法が使えたり、浄化魔法が使えたりして美しかったりするのだろうか。


 俺がそんな風な事を考えていると、システィがぶつぶつと呪文を唱えて翡翠色の光を纏わせた手を近付けてきた。


「やめろ! 大丈夫だっつうの! そのおぞましい魔力を引っ込めろ」


 その翡翠色の光を近付けられると、鳥肌が立つというか、背筋がゾクゾクとするのだ。


 それも魔の森で湖に近付いた時よりも強い嫌悪感だ。


 回復魔法を、俺が慌てて否定したのでシスティが怪訝そうな顔をする。


「何よ? ただのヒールじゃないの? アンデッドじゃあるまいし怖がることないじゃないの。これには誤射も何もないわよ?」


 そうか。俺はアンデッドであるデュラハンだから回復魔法を受けたりするとダメージを受けてしまうのか! 何というありきたりな設定。


「俺の鎧は特別製だから、多少の攻撃や魔法は効かないんだ。だから回復魔法はいらない。気持ちだけ受け取っとくから!」


 村にたどりつくまでに、このやり取りをさらに二回ほど繰り返した。



 村に帰還するなり村長である老人にゴブリンの巣を一つ潰した事を報告。


 ゴブリンの巣があったことに驚いていた老人だが、すでに滅ぼし、逃げのびた個体がいないか探策したことを教えると落ち着いた。


 計十四個のゴブリンの片耳を討伐証明として渡すと、大層満足した様子だった。


 約束通り、この兜を譲ってくれたうえに、兜以外の装備一式も持って行っていいと言われたのだが、俺には必要のないものだし、着替えることもないので遠慮した。


 それでは依頼内容と報酬が釣り合わないだろうということで、いくらかのお金をもらった。


 銀色と銅色の丸い硬貨を合わせて合計二万キュルツ。この世界では円ではなく、キュルツというらしい。


 報酬に加えられていた兜の分から引かれているとはいえ、田舎の村にしては結構お金払いが良いとシスティが言っていた。


 俺にはこの世界の経済や物価がわからないので何とも言えないが、村の雰囲気を見る限りでは経済状況は良さそうだ。


 異世界の村は貴族や王族の腐敗が進んでいて、各地では疫病や飢餓に苦しむ村人が大勢いた。とかではなくて本当に良かった。


 そんな暗い異世界には希望も何もない。


 魔物とかいう人類を脅かす存在がいるのだけれど、冒険者がそれらを狩り、売る事でお金を循環させる事に貢献しているのだそうだ。


 魔物ならではの素材を使った武器や防具、衣服から食料までと幅広く使用し、生きているのだから、人類とはたくましいものだ。




 依頼を終えた俺は村長である老人の家に来ていた。


 ちなみにシスティは仲良くなった村娘の子の家に泊まるらしい。


 俺もできればそちらに行きたかった。


 家の中に入れば恰幅のいいお婆ちゃんが部屋を案内してくれた。


 老人の家は他の家よりも少し立派で客間や、大きめの倉庫、誰かが泊まるための空き部屋といったものが用意されていた。


 普段は商人さんや、他の村からきた村人、行商人や怪我人、冒険者などを泊めたりしているようだ。


 室内には質素ではあるがベッド、椅子に机、棚に絨毯と言った最低限の家具が揃えられてあった。


 冷たくてゴツゴツした洞窟ではなく、きちんとした生活空間がここにある。


 安全な場所で時間を過ごせる事に安心し、ベッドに転がって息を漏らした。


「はあー、心が落ち着くわー」


 結構俺の身体が重かったのか、ベッドがみしりと音を立てる。


 壊れないかと心配になったが、結構丈夫だったらしく大丈夫だ。動くたびにギシッという音が上がるが……。


 人間であった頃の名残か、こうして横になっているだけでも落ち着くものだ。


 まあ、布団の質はそれほどよくないのだが仕方がない。落ち着いた場所があるだけで十分である。


 それからベッドでのんびりとしていた俺だったが、食器が鳴るような音を聞いてひとつの問題を思い出した。


 食事である。


 こうして兜を被って、デュラハンだという事を偽っている俺だが、もちろん食事なんて食べることができない。


 口なんてないし、一体どこから食べるというのか。食事をしなくてもこの通り元気だ。


 しかし、食事を出されたのに一切食べないという事は怪しいものだ。


 室内にいるというのに、兜を取らないのか? 鎧を脱がないのか? ということは身体に酷い傷がある。見られたくないといった事を言う、もしくは脱ぎたくない雰囲気を出せば問題ない。初対面の相手にいきなり詮索なんて普通はしないからな。


 席に着けられ、「食べんのか?」とか言われた暁にはどうしようもない。


 他人の料理は食べない主義なので…。感じが悪い。潔癖症か毒を警戒している王族みたいじゃないか。


 実は宗教上の都合で食べられないので……。これはあり得そうだが、全て食えないというのはおかしいな。


 使えるとしたら、宗教上他人に顔を見せてはいけないので、一人で食べるとかであろうか。


 ちょっと女性にありそうな戒律だな。


 この世界にも宗教は無数にあるようだし結構いけそうな手だ。


 もしもの時は、それに合わせて顔に怪我があるので見せたくない。一人で食べたいとかで誤魔化そう。少し気を使われそうだが、仕方がない。


 まあ、今回の場合は一泊するだけなので問題ないな。


「デュークさんや、晩御飯は食べるかね?」


 ノックと共にかけられるお婆ちゃんの声。俺は慌てて身を起こして、


「いや、さっき森の中で食べましたので結構です」


 こう言っていれば簡単に撒けるのではないか。システィだってお腹が空いたとかいって乾パンみたいなものや、途中で生っている木の実とか食べていたし。


「本当かい? 遠慮してないかね? デュークさんってば身体大きいんだから、たくさん食べなきゃ駄目だよ?」


「それではパンだけもらえますか? あとで食べますので」


「わかったさ」


 俺がそう言うとお婆ちゃんは満足したのか、去っていく。さすがは田舎のお婆ちゃん、初対面の人が相手でも押しが強い。


 パンも必要ないが、明日システィにあげるか鳥にあげるかでもしよう。


 その後、老人が体調が悪いのかと心配しに来たが、そんなことはないと適当に誤魔化してベッドに横になった。


 こうして人間の下で暮らすことで、この世界の色々と知れた俺だが、他人と暮らすことは難しいものである。




 夜が明けて空が白くなってきたので、俺は家を出た。


 ギイィと音を鳴らして扉を開くと、爽やかな空気が俺の鎧を撫でた。


 朝の冷たい風が気持ちいい。


 デュラハンとなった今でも、こうした触覚などはきちんと機能している。人間の肌に比べて多少鈍い気がするが問題ないくらいだ。


 何となく大きく伸びをしてから、俺は歩き出した。


 この村には灯りというものがないらしく、村人達は早寝早起きがほとんどである。


 しかし、老人の家の一室には魔力を流せば発光する魔道具があった。


 電気といった便利なものを知っているが、これはこれで驚いたものだ。


 一応、俺にもきちんと魔力というものがあったらしく光った。魔力があれば俺だって魔法を使えるんじゃないのかと思った俺だが、この世界に住む者なら魔道具を使うくらいの微量な魔力を皆持っているのだとか。


 システィのように魔法を使えるようになるのは、相当魔力も必要らしく難しいらしい。


 俺でも簡単に魔法が使えるかもと思ったのだが、がっかりだ。


 王都ではそういった魔道具多く使われており、夜でも灯りをつけているのだとか。


 ふむ、ファンタジーならではの方法だな。


 俺が適当にふらついていると、朝早くに起きた村人達がぞろぞろと扉から出てくる。


 井戸で水を汲もうとバケツを手に持っていく者や、農具を持って畑を向かう者と様々だ。


 子供から大人まで皆、元気に一日を始めるようだ。


 村人達の格好や料理、建物から判断すると、この世界の文明は中世ヨーロッパくらいのようだ。


 王都では魔道具がたくさんあるお陰で、少し生活が便利になっているというところだろうな。


 しばらく村を歩き回っていると、やがてシスティの姿が目に入った。


 相変わらずのポニーテールと涼しげな瞳は空よりも青い。少し眠たそうに目を擦っているが、確かな足取りで俺の方へとやってきた。


「おはようデューク」


 鈴を転がすような凛とした声が響き渡る。


 先程の眠たそうに目を擦っていた姿はどこにいったのか、今では凛とした魔法使いの少女の姿が目の前にあった。あったのだが、この魔法使いはファイヤーボールすら真っすぐに飛ばせないポンコツ魔法使いである。


 綺麗で優秀そうなのだが実に残念。


「…………おはようシスティ」


「挨拶が返ってくる間に、何か酷いことを思われた気がするわ。哀れみの雰囲気が出ているというか……気のせいよね?」


「さて、システィ。今日は王都に行く商人の馬車に乗せてもらって王都に向かうんだったよな?」


「ちょっと! あからさまに話を逸らさないでよ! こっちを見て答えてよ!」


 朝から元気にポニーテールを揺らして抗議するシスティ。


 俺はそれを軽く流しながら、商人の馬車が待機しているであろう広場へと向かった。




 広場へと向かうと商人らしき人々がせっせと荷物を馬車へと詰めていた。


 そこには老人とお婆ちゃんがおり、一人の商人と話しをしていた。


 そう、老人がポダ村に来ていた商人に話をしてくれて、俺達を乗せてくれるように図ってくれたのだ。料金はいらない代わりに、俺達は魔物が出てくれば戦わなければいけないのだがそれくらいはお安い御用だ。


「おー、来たのか。この者達が昨日あっという間にゴブリンの巣を退治してくれた奴じゃよ」


 老人が俺達を紹介するように商人に言う。


 退治したのはほとんど俺なんだけれどね。システィといえば、偶然逸れたファイヤーボールでゴブリンを一匹倒しただけ。本人はちゃんと狙って倒したとか言うが、甚だ怪しいものである。


「へー、確かに見た感じ有能そうなお二人ですね。全身を鎧でかためた屈強な前衛、そして青髪の少女は見るからに有能そうな魔法使いですね」


 ふっ、システィが有能ね。


「聞こえてるわよデューク。あとで、覚えときなさい。私の力はあんなものじゃないんだからね?」


 俺の声が漏れていたのか、システィが顔を引きつらせながら小声で言う。


「あとで覚えておきなさいって、それは俺の背中を魔法で打ち抜くっていうことなのか?」


「違うわよ!」


「とにかく、魔物が出てきたさいはお二人さんにお願いしますね? 喧嘩とかしないで下さいね? 大丈夫ですよね村長?」


「……実力はあるはずじゃよ」



次回、システィ大暴れ?

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