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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
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フレンドリーファイア

 

 やはりというか、村長だった老人に担保としてシスティのお金を預けて、俺達はゴブリンを討伐しに村外れの森へ来ていた。


 何だかこういうのって依頼っぽくていいよな。ゲームではよくこうやって依頼をこなすために各地を駆け回ってレベル上げをしたっけな。


 村に着いて、そのままの足でまた森へとやってきた俺だが、テンションは高かった。


 元々デュラハンだし疲れを感じないしな。


 今は久しぶりに人と話して、行動ができているだけでも楽しいし。


 システィは少しぶうたれていたが。


 しかし、同じ地域にある森とはいえ、住む動物や魔物によって全く風景が違うもんだ。


 ここらの木々はそれほど高くなく薄暗くはないのだが、よく動物達が通るせいか獣道がたくさんあって天然の迷路のようにも思えた。


 獣道や茂みを利用して、今にもゴブリンが襲ってくるのではないかという気がする。


「ほら、これ一応持ってなさい」


 俺の隣を歩いていたシスティが立ち止まり、腰から引っさげていた物を渡してきた。


 布に巻かれているそれを解いてみると、金色と青を基調とした鞘が現れた。


 長さは大体六十センチくらいであろうか。いわゆる短剣といわれる奴だ。


 鞘や柄には精緻な模様が金色で掘られており、一目で結構な値段のするものだと思われた。


 柄を引っ張って刀身を覗いてみると、美しい白刃が姿を見せた。


 刀身が日光を反射して輝く。


 そして俺はそれを丁寧に柄に戻した。


「これ、結構なお値段がしそうなんだが……」


 これ一個だけで大きな屋敷が建っちゃったりしないよね? そんなものだったら安心して使えないんだけれど。


「そんなに高いものでもないわよ。だからって折っていいものでもないけど」


「本当かよ。折ったら後でお金を吹っ掛けたりしないだろうな? 俺ってば無一文だぞ?」


「しないわよ。それより! さっき言い損ねたけど、私のケープを乱暴に引っ張ったりするのは止めてよね」


 システィは俺の疑いの言葉を軽く流し、俺に向けて忠告するように強調して言う。


「も、もしかして、そっちの方が高級品だったか!?」


 さっき引っ張った時はそれほど高級という印象は受けなかったが。いや、特別な素材が使われている防具や魔法的な効果があるものなのかもしれない。


 何しろここは剣と魔法のファンタジー世界だ。魔法の武器や防具くらいあるに決まっている。


「違うわよ。短剣よりお金の価値は低いわ。……でも、これはお母さんの形見だから私の中で一番大切なのものなの」


 切れ長の青い瞳を細めて、瞳と同色のケープを宝物のように握りしめるシスティ。


 きっと、それは亡き母親が使っていたか、システィに編んでくれたものなのであろう。


 そんな大事なものを俺は乱暴に引っ張ったりしたのか。


 あの時、システィが蹴った理由が分かった気がする。


「ごめん。もう乱暴に掴んだりしない」


「べ、別にいいわ。次からは気を付けてよね?」


 俺が素直に謝ると、システィが手を左右に振って微笑を浮かべた。


 こういう一回目は大らかに許してくれるタイプは、繰り返してやってしまった時が怖いので気を付けようと思う。


「ああ、ありがとう。短剣折らないように努力するから」


「……折っちゃう可能性が高いのね」



 ◆



「いたわね、ゴブリン達が」


 森を探索していた俺達は、今回の依頼のターゲットであるゴブリンを見つけて茂みから窺っていた。


 緑色の肌をした鬼のような顔をした魔物。尖った耳と大きな鼻が特徴的なファンタジーではド定番の魔物である。


 四匹のゴブリンは開けた道を、棍棒を片手に歩いていた。


 獣道でも進んでいれば茂みや木々と擬態して発見しづらかったであろうが、開けた道を普通に歩いているためにすぐに発見できた。


 魔の森にいるゴブリン達は枝葉と擬態するように隠れて、獲物が現れれば木陰から飛び出すという狡猾さを持っていたのだが。


 どうやら魔物も環境によってタイプが違うらしい。


「じゃあ、デュークが突撃してゴブリン達の気を引いてね。私がその隙に詠唱して魔法を放つから」


「おう、任せろ」


 ゴブリンに感知されないギリギリの範囲まで引き寄せて、俺は茂みから一気に飛び出した。


 魔の森でも何度も相手した奴等だ。


 マシてや意識低い系のゴブリンなんかに俺が負けるはずがない。


 俺としてはシスティの魔法とやらが気になってしょうがないくらいだ。


 茂みから姿を現した俺とシスティの姿を見て、ゴブリン達が警戒するように後退る。


 それから自らを奮い立たせるかのようにして、四匹は耳障りな声を上げ出した。


 俺はシスティから借りた短剣を鞘から引き抜き、先頭にいるゴブリンの頭へと叩きつけた。


 勿論ただの力任せだったのだが、白刃はゴブリンの脳天へと食い込み、バターのように真っ二つになる。


 おおっ、ちゃんと斬れた! というか予想以上に斬れた。真っ二つになるとは思わなかったぞ。


「おお、さすが高そうな見た目をしているだけはあるな。切れ味も抜群じゃないか」


 俺が仲間の一匹を倒した事を理解したのか、ゴブリン達がいきり立った声を上げる。


「あ、あれ? あの短剣でゴブリンを真っ二つになんてできたかしら? ま、まあ、今はいいわ戦闘中だもの」


 後方からシスティの声が微かに聞こえたが、ほとんどがゴブリンの奇声のせいで聞き取れなかった。


 吠える暇があったら、かかってくればいいのに。


 そう思っていたら、早速ゴブリンの一匹が飛びかかってきた。


 木の棍棒如きで俺がダメージを負うはずがないが、十分に迎撃ができる速さなのでボールのように蹴ってやる。


 デュラハンの力が込もった、蹴撃はゴブリンの横っ腹へと当たり――そして、ゴブリンは吐しゃ物を撒き散らしながら吹っ飛んでいた。


「……へっ?」


 後方からシスティの間抜けな声が聞こえる。


 ゴブリン達は己の仲間が飛んでいった様を眺めて、怯えるように後ずさる。


 目の前で仲間がボールのように吹き飛べばそうなるだろう。


「おい、魔法はまだなのか?」


 こっちは魔法を見たくてうずうずしてるんだが。


「わ、わかってるわよ! 今から魔法を放つからどいて!」


「おお!」


 俺が嬉々としてゴブリンから離れると、ゴブリン達が戸惑ったように顔を見合わせる。


 そのタイミングでシスティの叫び声が響き渡る。


「赤き炎よ 我が手に集いて力を放て『ファイヤーボール』ッ!」


「おお!」


 システィの突き出した手から火球が生み出された。魔法の代名詞ともいえる魔法である。


 俺が興奮の声を上げながら見守っていると、火球がゴブリンへ向かって一直線に……。


「はっ?」


 向かっていたのだが、俺に吸い寄せられるようにカクンと曲がる。


 おいおい、何で避けた方に火球がくるんだ!? 


「ちょっと危ないからどいて!」


 いやいや、さっきもその言葉を聞いて、ゴブリンから大きく離れたのですが!?


 回避した先にやってきた予期せぬ火球は、俺の横っ腹に着弾。


 火球は爆発すると同時に周囲に火炎を撒き散らした。


「……あっ……」


 漏れるように出たシスティの声と同時に、横っ腹に少しの衝撃とほんのりとした温かさがやってきた。


 魔法使いにおける最悪といってもいいもの。フレンドリーファイアである。


「おい! 何味方に当ててるんだよ! 敵はあっちだろ!? あっち!」


 視界に広がる黒い煙を振り払いながら、俺は憤慨するように叫んだ。


 防御力の高いデュラハンだからよかったものの、ただの人間だったらシャレになっていないぞコレは!


 後方から援護するはずの魔法使いが、味方へと誤射し相手の援護をするとは言語同断だ。


 痛くはなかったが、背中を預ける魔法使いがそれでは困る。


「ご、ごめんなさい! でも……ファイヤーボールが当たって平気なんだ……」


「味方にファイヤーボールをぶちかましてといて、何勝手に引いてるんだよ。こっちがドン引きだよ!」


「その……デュークの全身鎧ってば丈夫なのね。壊れた様子もないし、魔法耐性でもあるのかしら?」


 にへらと笑って媚びをうるシスティ。


「何あからさまに褒めてるわけ!? 熱いだろうが!」


 まあ、ワイバーンの炎に比べれば痛くもないんだが。ちょっと温かいものが当たったな程度。しかし、ここはコイツのためにも大げさに装っておくべきなのだ。というか普通ならそのはず。


「……普通はその程度じゃ済まないはずなんだけれど」


「そんなものをお前は故意にぶつけたのか!?」


「ち、違うわよ! 本当にゴブリンを狙ったんだってば」


「じゃあ何で避けた俺の方にファイヤーボールが飛んでくるんだ!? 明らかに俺を狙ったかのように曲がってきたぞ!?」


 あんな切れのいいカーブ、狙っているとしか思えない。


「しょ、しょうがないじゃない! コントロールが利かないんだから!」


 きちんとした説明を求めただけだったのだが、システィが肩を戦慄かせて逆切れしだした。


 落ち着いた雰囲気を持っているから、大人っぽく思えたのだが案外子供っぽいのかもしれない。


 コントロールが利かないってどういう事だよ。


「お、お前そんなんでどうやって旅していたんだよ!?」


「…………それは、その、他の人についていきながらとか」


 俺がもっともな疑問を投げかけると、システィは視線を逸らしながらポツリと答えた。


「その時は?」


「……ファイヤーボールを背中に当ててしまいました。で、でも! ファイヤーボールなら五回に一回は敵に当たるのよ?」


 そのうちの四回が非常に気になる。


 しかも、ファイヤーボールならって、他の魔法はもっと悲惨なコントロールをしているのか……。


 できる魔法使いみたいなオーラを発しているから、さぞ優秀な魔法使いだと思ったのにとんでもないポンコツ魔法使いである。


 魔法使い詐欺じゃねえか。


 俺の魔法への期待を返して欲しい。


「……あれ? そういやゴブリン共はどこに行った?」


「……多分、逃げたんじゃないかしら?」


 ああ、もう!



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