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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
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この兜をもらうために

 

「システィはどうして一人で旅をしているんだ?」


「決まってるじゃない。冒険者になるためよ。その為に王都に向かってるの。王都の方が色々あって便利だし」


 システィの言葉を聞いて、衝撃が走る。


 魔物が存在するこのファンタジーな異世界。やはり、魔物の討伐を生業とする冒険者がいたのか。ファンタジーなら定番だな。


 ということはポダ村を経由して王都とかいう所を目指しているのか。


 いいなあ冒険者。依頼を受けて魔物を倒し報酬を貰う。


 酒場には情報が集まるし、依頼のために遠い各地へと行く事もあるだろう。


 もしかしたら自分の首の情報が集まるかもしれないな。


 この世界の情報を知るには、実際に暮らしてみる事が一番のはずだ。


 兜を被って偽装ができるなら何とかなるはずだ。


「デュークは?」


「俺も冒険者を目指して田舎からやってきた」


 こうやって田舎者宣言しておけば、多少無知でも大目にみてくれるのが定番だ。


「魔の森をつっきって来たのが本当なら、クロウディア皇国の村から来たのかしら?」


「ん?」


 隣でシスティが何か呟いていたが、聞こえなかった。


「何でもないわ。それなら目的地は一緒よね? この先では王都にしか冒険者ギルドがないし」


「ああ、田舎者で無知だがよろしく頼む。近接戦闘には自信がある」


 全身鎧の格好してるけど剣士じゃないよ?


 本当超近距離からの拳が俺の持ち味だから。剣なんて持ってないし。


「ええ、私は後方から攻撃する魔法使いだから、デュークのような前衛の剣士がいてくれると――あれ? 剣はどうしたの?」


「……途中で折れた」


 剣士の癖に剣を持っていないなんてというような表情をして、ため息を吐くシスティ。


「ハア……村で剣や短刀を持っている人がいれば売ってもらいましょう。なければ、私の短刀を貸してあげるから」


「……すいません、お金持ってないんでシスティから借りることになりそうです」


「やっぱり、別々に行こうかしら?」


「すいません、戦闘には自信があるんで見捨てないで下さい!」


 がっかりしながら歩くシスティに泣きつくように、俺はケープを掴んだ。


「ちょ、ちょっと、そんな恰好してるのに泣きつかないでよ気持ち悪い! お気に入りのケープが千切れるから離してよ!」


「首を縦に振るまで離しません!」


「ちょっと、離して……ああああ!? 今メリって音がした! お気に入りのケープが!? ちょっと離しなさい! 離さないと本気で蹴るわよ!?」


「やってみろ! 防御力には自信があるぞ」



 ◆



「あれがポダ村か」


「…………そうよ」


 俺が自分の有用性を示して同行し、道なりに歩くとポダ村らしき小さな村が見えた。


 隣のシスティの声がちょっと疲れぎみな様子だが、きっと長旅で疲れたのであろう。


 足には疲労が溜まっているのか、少し足取りがおぼつかない。


「おいおい大丈夫か?」


「……足痛い」


 これはもう、さっさと村について休ませてもらうことにしよう。


 前方へと視線を戻すと先程の民家同様の家が多く立ち並んでいた。


 村の周りをぐるっと囲むように柵が立てられているのは、魔物や獣避けのためだろう。


 外側には多くの畑や水路が巡らされており、小さな子供が何人か楽しそうに走り回っていた。


 実に平和な田舎の村の光景だ。


「すっげー、騎士だぞ」


「大きい人だね」


 小さな子供たちの好奇による視線に晒されながら、俺とシスティは村の入口へと入ったのだが……、


「泥棒じゃ!」


 村に入るなり、老人が出てきてそんな言葉を投げかけてきた。


「おいおいシスティ、途中にあった作物でも摘まみ食いしたのか?」


「何で私がそんなことしなきゃいけないのよ。デュークと違って私はちゃんとお金を持っているのよ?」


 システィの言葉により、老人がやっぱりかというような視線で俺を見た。


 何だその視線は。お金を持っていないからと言って疑うのは良くないことだぞ。


「ちょっと! 俺が何を盗んだって言うんだ!?」


 身に覚えのない罪を被せられる言われはない。


 断固として宗介もとい、俺様デュークは戦う。


 俺が抗議するのに対し、老人が指をこちらに突き付けてきた。


「お前さんが被ってるその兜じゃ!」


 俺の兜に。


「なあっ!?」


 驚きの声を上げる俺に、老人は言葉を続ける。


「その兜は騎士を引退した村人の兜じゃ」


 た、確かに俺ってばついうっかり兜を持ち出して、被ってしまった。


 つまり、老人は知り合いの家にあるはずの兜を、俺が被っている姿を見て泥棒と呼んだわけだ。


 確かにそれは泥棒かもしれん。というか泥棒だな。


「家の中でガチャガチャしていると思ったら、やっぱり泥棒じゃないの」


 隣にいるシスティからのジトッとした視線が痛い。


「いや、その、魔の森を抜けてくる時に兜を失くしちゃって……」


「兜と剣も失ってよく生きていられたわね」


「俺ってば運だけは強いから」


 魔の森という事で何とか納得してもらえたようだ。


「でも勝手に取るのは駄目よ。兜を脱いで返しなさい」


「嫌だよ! 俺はこの兜を気に入ってるんだ! 絶対に脱がないぞ!」


 ここでこの兜を取ったらデュラハンだとバレてしまうじゃないか。


 何て事を言い出す子なんだ!


「兜を返したら済む話じゃないの。ほら、返しなさい」


「絶対に嫌だ!」


 嫌がる俺の兜を取ろうとするシスティだが、圧倒的に身長が足りない。


 なんせ今の俺の身長は、兜を合わせれば百九十センチはあるのだから当然だ。


 それに対してシスティの身長は百六十センチあるかないかくらい。


 そんな下から来る腕なぞ容易に躱せるし弾けるわ。


「ははは、無駄無駄」


「ていっ!」


「危なっ!」


 こいつ手に持った杖で俺の兜を突いてきやがった。


 普通の人間が当たれば顔を痛めるし、デュラハンな俺なら首が飛ぶという驚きの状態になるんだぞ!?


「方法なら別にあるじゃないか!」


「何よ?」


 デュラハン発覚に怯えながら答えた、その言葉にシスティの動きが止まる。


「兜を売ってもらえばいい」


「あんたお金持っていないでしょうに! 払うのは私じゃないの!」


 俺のナイスな提案には、怒声と杖による鋭い刺突が飛んできた。


 それを俺は体勢をずらすことで回避。


 段々と鋭くなっているのが恐ろしい。棒術か何かでも修めているのだろうか。


「まあ、報酬として譲ってやれんこともない」


「おお!」


 老人の言葉に俺は期待の声を上げる。


「でも、他の村人の物なんじゃ?」


「まあ、あやつはもうこの世におらんしな……」


 窺うようなシスティの言葉に、どこか遠い目をして答える老人。


 あやつと親しみを込めて言うから、仲が良かったのだろう。


 死んだ人の物を使っている事に何か思わないでもなかったが、人間として紛れるためには仕方がないと思う。


 この兜との出会いが、俺の生活を変えたのだから。


「……すいません」


「いいのじゃよ。あやつだってお気に入りの兜を錆びさせていくのは好きではないはずじゃ」


 謝るシスティに、気にするなと好々爺のように笑う老人。


「それで、報酬として譲るからには何かやって欲しい事があるんじゃ?」


「そうじゃ。お主達は見たところ冒険者じゃろ? そうでなくてもそちらのお嬢ちゃんは魔法使いのようじゃし、お前さんだって全身鎧を着ているしそれなりに戦えるのであろう?」


 正確には、ここから王都に向かって冒険者になる予定なんだけれどね。


「ということは魔物退治ですか?」


「そうじゃ、最近散発的にゴブリンがやってきて困っているところじゃったのじゃ。幸い作物だけで村人には被害は出ていないが、いつ出るかもわからん。ゴブリンはあっという間に数が増える魔物じゃしのお」


 ゴブリンなら一ひねりだ。クマ公の大群やワイバーンでも来ない限りなんとかなる。


「よし、受けようシスティ! お互いの力を把握するのにもちょうどいいだろ?」


 は? 盗人なんて期待もしてないし、一緒に行く気もないんですけど? とか言われたら立ち直れない。


 でも、何だかんだシスティは優しいから、そんな酷いこと言われないと思う……多分。


「まあ、そうね。私も田舎の村娘だったから、こういう依頼は受けてあげたいから」


 良かった。酷いことは言われなかった。


 それにしてもシスティってば立ち振る舞いとかが綺麗だから、上流階級の人だと思っていたんだが。意外だな。




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