エピローグ2 とある大陸にて目覚めた存在
『俺はデュラハン。首を探している』の第1巻が発売しました! 店頭にて並んでいるかと思いますので、よろしくお願いいたします!
気が付けばそこにいた。
やたらと低い視界の中、彼が最初にできたことは転がることだった。まったく身に覚えのない洞窟のような景色、まったく不明な自分の存在意義。
そして見たことのない異形の怪物達。その怪物達が理由なく自分を襲う。
転がる以外に術がないと思っていた彼であったが、戦闘に関しては絶大な力があるのを悟った。自分が死ねと念じれば大抵の怪物は、自分から発せられる黒い霧に覆われてすぐに死ぬ。湧き上がる力を飛ばしていけば、いともたやすく怪物達に風穴を開けることができた。無限に続く洞窟の中、彼は自分にある力を振るって怪物達を殺し続けた。
自我がいつ芽生えたのか定かではない。ただ、生まれ落ちたこの瞬間ではない事を彼は感じていた。
夢のような中で、自分は道に飛び出し巨大な物体とぶつかった。いや、弾き飛ばされたという風が正しいか。気が付けば彼の視界は宙を舞い、そして儚く消えた。
そんな鮮烈な光景を目にした事は確かだ。
自分は何故生まれたのか。
どうしてここにいるのか。
なぜこんな力があるのか。
わからない事だらけではあったが、何かが自分に欠けている事だけは理解できた。
自分の身体の奥から感じる切なさや乾き。まるで長い間ずっと持っていた大事な物を失ってしまったかのような喪失感が湧き上がってくるのだ。
それは洞窟にいる怪物達を殺しても殺しても満たされる事はなかった。
自分を襲う強烈な喪失感は未だに消えない。それでも彼は洞窟内をひたすら転がり回り、怪物達を殺しまわった。
そうして洞窟を彷徨い転がる中、彼はついに洞窟の外に出た。初めての景色に見惚れた彼だが、ほんの少し喪失感が紛れた気がした。
よくわからないが、この喪失感を埋める何かにほんの少し近付いたのだと理解した。
洞窟に用はないと思う中、彼は森の中で毛深い怪物と出会った。牙があり、爪が長くとても毛深い身体だ。
一目で怪物だとわかったのだが洞窟にいたような怪物とは同じとは思えなかった。こちらが臨戦態勢に入ると、その怪物は言葉を操って命乞いをした。
今までの怪物とは違い、意思の疎通ができる怪物と出会った彼は、一先ず殺すことは保留にして怪物と話をすることにした。
臆病で弱い怪物ではあるが、とても博識であり怪物は彼を楽しませた。
様々な事を教えてもらう中で彼は気付く。
自分は首しかないのだと。
自分には怪物のように手足は無く、首だけしかなかった。歩くことはままならず、移動するには転がることしかできない。
それが当然の事だと受け入れていたのだが、どうやら自分と似ている姿をした生き物がいるのだと。
そして自分は、その生き物の首という部分だけらしい。本来ならば『身体』というものとくっ付いており、足で歩くことや手で物を掴むこともできるのだそうだ。
自分の喪失感の正体が『身体』だと知った時、実を焦がすような喪失感が僅かに和らいだ気がした。恐らくこの毛深き怪物が言う通りなのだろうと、彼は確信した。
あの鮮烈な光景の中でも、自分には『身体』があり、自由に歩き回っていたからだ。
怪物はまるで人間の鎧のようだと話していたが、彼には人間というものも、鎧というものもわからない。
彼は毛深き怪物を仲間だと認識し、それからもさらに会話を続けた。
毛深き怪物はすばしっこい割には、戦う力が弱いので戦闘のほとんどは彼が担当した。
彼が死ねと念じれば大抵の怪物は殺すことができ、怪物が押し寄せる場所でも問題なかった。
本来なら毛深き怪物の言う人間という生き物の場所まで、一直線に行くべきなのだが、彼は空腹や疲れや、睡眠や渇きを感じる生き物らしく、そう簡単にはいかなかった。
一瞬、彼は毛深き怪物を見捨てようかという思考がよぎったが、自分は人間のいる場所も知らない。それに毛深き怪物は様々な事を知っているので非常に役に立つのだ。
そういう利点を抜きにしても毛深き怪物は、彼に暖かい何かを芽吹かせるくらいの存在になっていた。
果てしない道のりを彼は毛深き怪物と進み続ける。
毛深き怪物は強さと知力を得るため、彼は己の『身体』を探し求めて。
今日も彼らは怪物が跋扈する大陸を歩き続けた。
この話を差し込むタイミングに非常に悩みました。
ですが、裏でこのような状況が進行しているのは早めに伝えて起きたかったので、エピローグ2という形で差し込ませて頂きました。
まだ、デュークやシスティに直接絡んではきませんが、いずれ出会うことでしょう。
三章近々更新。




